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2013年02月05日

マレーシア奮闘記4

 プリンスさんが席に戻るまで、僕はもう一つ抱えていた設計問題の解決方法を考えていた。それは現在開発中の製品において、量産期日が間近に迫っているにも関わらず、ある一つの設計問題を解決できずに足踏みしていたやつだった。周囲や日本のメンバーはそのことに焦っていた。お客さんがついて納期が決まっている製品なだけに、開発の遅れは許されない。
 この製品の担当者は、またしてもアーノルドさんだった。この問題については、アーノルドさんもプリンスさんも頭を抱えていたのだ。
 日本側の設計陣は日本側の顧客に対し、この問題は構造上からくるもので、解決するためには設計のやり直しが必要だということをやんわりと説明しだしていた。どうにか今のレベルで承認してもらえないかと、保険として交渉してくれているのだ。インド側の顧客は絶対に許さないと言っているが、インド人も日本本社からの声掛けがあれば折れてくれる可能性があった。
 日本のお客からは、内容は理解したが解決のための努力を見せて欲しいという回答がきた。いくつかの方策を試し、その結果を示しながら限界だと言ってもらわないと簡単に了解できないという、もっともな回答である。その打ち合わせの結果が僕ととしちゃんに報告されていた。

 そのような交渉があることを知らず、マレーシア側では対策について色々と考えていた。敢えてマレーシア側の担当者にそれを知らせないのは、手を抜かれては困るからだった。問題については、日本側のメカニカルエンジニアから解決するための一つのヒントも貰っていた。こんな風にしたら多少は誤魔化せるかもしれないというアイディアである。それに対しアーノルドさんは、サプライヤーが対応できるか分からないから、まずはそちらの確認が先だと譲らなかった。その確認も必要だが、試作をすぐに始めなければ間に合わなくなるからすぐにやろうと言っても、アーノルドさんは動こうとしない。そしてプリンスさんは上と下の板挟みに遭い深く悩んでいた。
 アーノルドさんは、サプライヤーができると言ったら試作をせずに直接金型をいじってしまおうと考えているようだ。しかし僕はそれに反対だった。
 金型というものは削る変更は早くできるが、増やす変更は時間が何倍もかかる。今試そうと思っているアイディアは金型を削る変更なのでそれは良いが、効果がなく失敗だったと言っても元に戻す時間が足りなくなり「THE END」となる。全体のスケジュールを考慮して少し考えたらすぐに分かることであった。それに気付いたプリンスさんやとしちゃんも、一度手作り試作で確認しようと主張したが、なぜかアーノルドさんはそれを認めようとしなかった。
「マレーシアで試作はできないの?」
「この試作はマレーシアで短期間にできない。材料も同じものはないから、やっても意味がない」
「材料が違っても、現状品と改良品の両方を試作レベルで作ることで、改善効果の確認はできるよ。試作は日本でやってもいい。それは僕の責任で最短納期でやってやるよ」
 材料ブロックをデータをぶち込んだNC(数値制御耕作機械)で削りだせば、複雑な形状だって試作は簡単にできてしまう。これまで散々そのようなことをやってきた僕には、決まったものを作るだけなら自信があった。それに対してアーノルドさんは、やはり無言だった。プリンスさんはその横で、やれやれというふうに顔を左右に数回振った。

 僕の役割の一つは、プリンスさんの心の負担を軽減することである。「一つの役割は」と言いながら結局たくさんの役割を担っていることになるが、とにかく期待されて雇われている以上はできるだけ期待に添いたいと考えるのが人情だ。それ以前に僕は、心の温かいプリンスさんをどうにか救ってやりたいと思っているのだ。だからこの問題も、僕はできるだけ早く道筋をつけたかった。
 少しぼんやりしながら何となく問題になっている部品を眺めていて、ふとあるアイディアが浮かんだ。面倒な試作をせずとも、ペーパーを利用し同じ効果を確認できるかもしれないと思いついたのだ。
 問題はある製品のパネル上にある照明問題だった。ボタンが透明樹脂になっており、その透明樹脂全体が光るように設計されているが、ボタンの透明部分を支える白い樹脂の壁が邪魔になり、一部にわずかな影ができてしまうのである。最初からプリズムで光を引きこめばよかったような気がするが、時すでに遅しであった。最終ユーザーから見えるところであり製品の印象を左右する問題であるから、何とか解決したいところである。
 しかしこの問題、影がある部分というのは光の量が不足していて、その他の部分は光の量が多いのである。その輝度の差が影として見えるという問題だった。今は光の足りない部分に何とかして光をもっていきたいと考えているが、逆に光の多い部分を減らしてやれば、輝度が均一にならないだろうか。逆転の発想である。では光の量を減らすにはどうするか。その答えは自分の目の前にあった。僕は普段使用している自分のノートに目がいったのである。
「紙?」
 透明樹脂を支えている白い壁の後ろ側に紙を貼りつけていけば、透過する光の量が減るのではないか。
 早速僕は、サンボさんの机の上にある鋏を無断借用し、ノートに切り取る形を正確に原寸で作図し、それを丁寧に切り取った。そしてその紙をボタンの裏側に貼り付けて、ボタンの裏側から携帯のフラッシュを当てて表側から見てみた。すると予想した通り、影がほとんど見えなくなっていた。しかし当然ながら全体の輝度は落ちている。すぐに回路設計者のところに行き、現在照明用で使っているLEDにどの程度電流を流しているかを確認すると、LEDには現在の二倍まで電流を流せることが分かった。これである程度全体の輝度を上げることができる。
 とりあえず光を遮るところを紙で代用したが、実際に同じ材料の白い樹脂を使い、透明樹脂を支えている天面の厚みをどれくらい増やしたらよいか検討しなければならない。これもすぐにやりたいが、さてどうしたものか。すると答えはやはり僕の目の前にあった。僕の机に、ボタンの試作品がごろごろと転がっているのだ。それを分解しボタンの裏側に貼り付けたらいいではないか。厚みはサンドペーパーで調整できる。何種類かの厚みの板を作り、最適な厚さを見つけたらよい。

 そこまで考えた時に、プリンスさんが席に戻ってきた。僕はさっそくプリンスさんをつかまえ、裏に紙が貼っているボタンと従来のボタンを二つ手渡し、携帯のフラッシュをつけてちょっと見てくれと言った。
 プリンスさんは怪訝な顔をし、それをフラッシュの上に持っていき覗き込んだが、最初は緩慢だった彼の動作が次第に早くなり、二つのボタンを何度も見比べている。そして満足すると横の僕に顔を向け、「なんで?」と訊いてきた。
「裏側を見て」
 プリンスさんがボタンをひっくり返して見てから僕に顔を向けたが、その顔には興奮と喜びが混ざった、なんとも嬉しそうな表情が浮かんでいた。
「マークさん、これ実際のセットですぐ確認したいけどいい?」
「もちろん、僕もすぐに見たい」
 僕たちはすぐに、実験室で暫定試作品を実際のセットに取り付け、それを暗室に持ち込んで問題の影を確認した。対策をしていないボタンが隣にあるので、その効果はすぐに分かった。明るくしたら影が出るかもしれない心配はあったが、携帯のフラッシュのような強烈な光で影が消えているのだから、その心配はそれほど必要なかった。

「明日別のボタンから材料を切りだして、同じように貼り付けてみるよ。それで効果が確認できたら、金型をいじって天面の厚さを増やそう」
「マークさん、グッドメカニカルエンジニアね」
「僕は電気屋で、メカニカルエンジニアじゃないよ」
「でも仕事の仕方を知ってるね」
「ずっと考えていただけだよ。それにまだまだ安心できない」
「でも少し安心したね。この問題はベイリーヘビーだったから。サンキューね、マークさん」
「それじゃ次に、僕の相談を聞いて欲しいんだけど」
「オーケーオーケー、ノープロブレムね」
 僕はプリンスさんに、量産品不良解析結果と対策をどうするかを相談した。そしてこのような問題に対する設計者の意識についても問題提起した。



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posted at 05:51
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カテゴリー:マレーシア奮闘記
エントリー:マレーシア奮闘記4
この記事へのコメント
今晩は!!なんだかんだ言って、マークサンは幸せの日々をおくってますね!?俺はというと、サラリーマンでいるがために、資格試験に追いやられ奮闘中で、山伏の仕事は疎か、本命彼女の面倒も疎か、約束事も疎か…最低です!彼女にごめんなさいって言いたい…けど、言えない…彼女は俺をいつも、支えてくれるけど、悪いから別れようかなって…!?
Posted by パロパロマン at 2013年02月05日 22:22
>パロパロマンさん
パロパロマンさん、こんばんは。
別れる・・、お好きにしたらよいと思われます。

僕が幸せ?
そうかも知れませんし、もっと幸せな道があるかもしれないです。気がつけば不幸のどん底にいるかもしれません。今が不幸への階段を降りている最中かもしれないのです。

よく分からないというのが正直なところですが、僕も人様同様、多くのことを我慢して家族のことを考えて働いていることだけは確かです。
正直そんなもんですし、同じような人が周りにたくさんいると思います。

とりあえず仕事があり生活費を稼ぐことができて人並みの生活ができるということについては、本当に恵まれていると感謝しています。
Posted by Mark at 2013年02月05日 23:47
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