フィリピーナと共に
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2015年02月03日

735.日本は平和だ

 先日急遽日本の広島に行ってきた。見積もり依頼の内容すり合わせ会議のためで、ついでに現行製品での懸案事項数点の打ち合わせを兼ねた、短期ゲリラ出張である。
 投げられたボール(見積もり依頼)はすぐに投げ返せというと、僕などは、厄介なものはすぐに手放せという意味合いの印象を持つが、ビジネスの世界ではそうではないらしい。

 マレーシアを水曜の夜に出て、打ち合わせは木曜の午後と金曜の午後。
 木曜の夜はホテルの近くで食事をしたが、歩く動きを止めたらそのまま凍り付いてしまうのではないかと思えるほどの寒さに怯んだ。体が南国に慣れきっているのと、厚手の上着がないため、なおさらこの寒さは身にこたえた。食後はまっすぐホテルに戻り、お湯をはったバスタブに浸かって冷えた体を癒していたら、昨晩飛行機であまり寝ていないせいで、いつの間にか居眠りしていた。どのくらいお湯に浸かっていたのか分からないが、へろへろになり裸でベッドに倒れ込んだら、そのまま朝まで眠り込んでいた。
 金曜の夜は現地の自社営業さんに地元の美味しいものをご馳走になり、二次会は誘われるがままに、ローカルなPPへ入った。その界隈のPPにいる女性のレベルはとっくにお見通しのつもりだったが、今回はまた世間の奥深さを教えてもらったというか、お店がよく雇ったと思われる方が横についたりして、別の意味で興味深かった。とりあえず歯が欠けていないのでよしとしなければならないと、自分を納得させるのに五分ほどかかったような気がする。最近、自分がアイタタの素質を十分持っていると友人Hさんのブログで知ったばかりだが、その僕がアイタタ精神をまるで発揮できず、所定の時間終了で迷わず会計をし、店を出て五分も歩かないうちに店と女性の名前を忘れるのは、自分にとって珍しいことだ。しかし、女性の体型や顔が焼印でも押されたかのように頭から離れない。そして九十分セットで覚えている彼女の会話が、唯一「飲み物いいですか?」だけというのも悲しすぎる。これを人は、散財と呼ぶのだろう。逆に、また行きたいな、指名したいなと感じる女性とは、僕の場合あとで顔を思い出そうとしても、霧に遮られるようにぼやけて明確に思い出せない。僕の頭の構造が、他人と少し違うのだろうかと気になる点である。

 土曜は深夜便でマレーシアに戻る予定で、ホテルのチェックアウト後、関西空港に移動する前に地元をぶらついた。頼まれたお土産と、モナにもいくつかリクエストされた物があったので、それを探して購入するためだ。しかし財布の中身には限りがある。最初に何を買うか考え、まずは書店に入って適当に文庫本を選んだ。この行動で、自分の最優先事項が何であるかをあらためて認識した。帰って買った本を数えたら十一冊あったので、しばらく休みの日はお楽しみが増えて嬉しい。 
 その後竹鶴17年(ウィスキー)、資生堂のリップクリーム、チョコレート、牛肉の佃煮、ジェットインクプリンター用フォト用紙、iPhone用ケーブルなどの頼まれものを買い、昼食のスパゲッティを食べてからドトールでコーヒーを飲み休憩した。最近のドトールはコーヒーが不味く、しかも値段が随分高くなっていて驚いたが、タバコが吸えるスペースを確保しているのが嬉しい。
 ガラス戸で仕切られた喫煙室に入り、禁煙室側の壁際テーブル席に座った。隣に随分太った若い女性一人が先客でいる。コーヒーを飲みながら買ったばかりの本を読み出すと、隣の女性のところに、彼女が待ち合わせしていた女友達がやってきて、突然騒がしくなった。
「ごめんごめん、待たせちゃって」
「いいんよ、うちが早く来すぎたけん」
「最近どうしてん?」
「就職が決まらなくて焦ってんよ、あれも来月で切れるけん。今三つの会社の返事をまっとるところ」
 言葉のイントネーションが地元特有のものだ。広島だから、極道の妻という映画の台詞の言い回しを思い出してもらえると、その雰囲気が近いかもしれない。
 どうやら太った女性は現在職を求めていて、もうじき失業保険が切れるらしい。父親がいくつか仕事を紹介してくれているが、場所が遠い、職種が嫌だ、給料が安いなどと、紹介案件全てがいま一つで断ったと、細かい文句を友達に打ち明けている。口では焦っていると言いながら、全然焦ってないじゃないかと僕は本を読んでいるふりをしながら横で思っている。ついでに、僕が会社の人事担当であれば、前向きな思考と懸命さが欠けるこの女性は、面接で不採用だ。(欠けているものが、歯だけという方がまだ許せる)
 それにしても就職の世話があるのに、それにどうでもよい理由をつけて断れるなんて、やはり日本は平和だ。焦っていると言いながら、こうしてコーヒーを買い友人と会話を楽しむ余裕があり、テーブルの下には、買い物をしてきたばかりの紙袋もおかれている。僕のこの女性に対する気持ちは、既にこの段階で「いい加減にせい」と言いたいようなざらついたものになっていた。
 その後話題は、誰それが自分に気があるらしく、先日誘いをかけてきたが上手に断ったというものに移行していった。後から来た友達は、そんな話をする女性と向かいあって上手に話を合わせているが、その話を信じているのだろうか、それとも心の中でバカにしながら上辺を繕っているだけなのだろうか。太った彼女は、水膨れしたような大きな顔にセルロイドの黒縁メガネをかけ、太い指の何本かに、かなりごついファッションリングがはまっている。僕には太った彼女が、かなり勘違いの激しい人物に映っている。日本の若い女性の傾向など最近知りようもないので、僕は手にした本をそっちのけで彼女たちの話に耳を傾け、時には表情を見定めようと視線をそちらに向けたりしたが、数回目があってしまったせいで何か勘違いされたのか、二人は揃って店を出てしまった。僕はアイタタおじさんではなく、アブナイおじさんに認定されたのかもしれない。
 
 その後すぐ、その場所に別の女性が一人やってきた。いわゆるボディコンという服装で、髪はほとんど金髪だ。視界の隅で捉えたそれは、かなりメリハリのあるボディで歳は三十半ばという印象だったが、最初はあまり気にしなかったので顔までしっかり見なかった。
 僕の座る席は喫煙席と禁煙席を仕切る壁際で、その壁はガラスになっている。そして丁度僕の左後ろ先にトイレがあり、時々トイレが空くのを人が並んで待っているのだ。僕のお腹は本調子でなく、ランチで食べたスパゲッティやそこで飲んだコーヒーが出そうな感じになっていたので、僕は時々首を左(その女性の方向)に九十度回し、トイレの空き状況を確認していた。すると僕の視線はトイレにあるが、新しくやってきた女性はどうやら、僕が彼女を気にしているように感じたらしく、彼女がこちらをちらちらと見るようになった。そこで初めて顔を見ると、歳はおそらく四十から四十半ばで、頬紅の目立つ丁寧で厚めの化粧が肌にうまく乗り切れず、まあまあの顔立ちなのに何か損をしているような方なのである。水商売というよりは、保険勧誘のおばさんにこんなタイプの人がいたなあという感じだ。これは誤解を避けるためにあらかじめ言っておかなければならないが、相手は決して僕のタイプではなく、僕に何か下心があるわけでもないのだが、単なる興味の範囲における妄想で、僕はこんなことを考えていた。
 もしかしたら、こんなシチュエーションでこの後どこかに行きませんかなどと話しかけたら、意外に交渉成立なんてこともあるのだろうか。そうやってそのままホテルに一緒に入ってしまうパターンも、世間には意外に多いのかもしれない。
 実際ラブホテル前で張り込めば分かるが、年配のお客は意外に多いのだ。それも、女性はまさに目の前にいるタイプが圧倒的である。
 いや、もしかしたら向こうから何か仕掛けてくるかもしれない。もしそんなことがあれば、これは何十年ぶりかの快挙だ。自分もまだ捨てたものではないということにならないか。もしそうなったら、どう対処すべきだろうか。
 おしりがむずむずするのも忘れそんなことを妄想していると、本当に隣の女性から声をかけられて、僕はたいそう驚いた。
「ハッカ味ですけど、飴はいかがですか?」
 彼女の手が僕の方に伸びて、プラスティックに包まれた二つの立方体の飴が目の前のテーブルに置かれた。
「え? あ、ありがとうございます」
「お一人ですか?」
「は、はい」
「私も一人なんです。テーブルを一緒させてもらってもいいですか?」
 僕はさっき、予知夢でも見ていたのではないかという気になった。我に返り相手の顔をよく見返すと、ニッと笑った口元に、見事な風穴が一つあいている。はじらんで赤く染まったように見える頬は、先ほど認識していたきつい頬紅である。彼女の化粧や服装と、ニッと笑った顔に浮かび上がる口元のブラックホールのような風穴に、強烈なギャップを感じて、一瞬、友人のHさんの言葉を思い出した。
「自分に関わる女性は、高い確率で歯が欠けている」
 もともとまったくその気はないのだけれど、これで「どうぞ」と言えば、その後の成り行きはどうなるのだろうか、僕はそのことにとても興味を抱いた。しかし、それにしてもおぞましい光景を見ているような気もした。僕は反射的に「済みません、残念ながらあまり時間がなくて」と言っていた。
 彼女は潔くしかも丁寧に、「そうですか、残念ですけど、仕方ありませんね。済みません、突然声をおかけしたりして。それでは失礼致します」と言い、すぐにその場を立ち去った。
 新手の宗教勧誘だったのか、それとも見た目通り保険の勧誘か、もしくは僕が妄想していた昼下がりの情事のお誘いだったのか。彼女が去った後、僕はやはりそれが気になり、もう少し上手な対応はなかったものかと後悔した。僕はつい後ろを振り返ってみたが、既に彼女の姿は見えなくて、不思議と残念な気持ちになった。人間とは、恐怖が去るとすぐにそのことを忘れる生き物であるようだ。
 
 ふと、昨夜会ったPPの女性の顔を思い出せるか試してみたら、今さっきの女性の印象がかぶり、どうしても思い出せなくなっていた。なるほど、所詮その手のインパクトとは、その程度のものなのだ。
 ついでにモナや子供たちの顔を思い浮かべてみると、それはくっきり頭の中で見ることができる。僕はその結果に満足し、自分もその場を立ち去った。
 相変わらず外は寒くて凍えるばかりだ。日本の冬が寒いということと、日本は平和だということを思い出す数日間だった。
 


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posted at 14:59
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カテゴリー:フィリピン生活
エントリー:735.日本は平和だ
この記事へのコメント
横浜在住のHさんの知人です
私の嫁さんも歯が1つありません
理由はHさんが言われる通りですね
Hさんには私どもの結婚パーティーに来ていただいたのですがオープンエアーの店内なため、ご祝儀もおいて行かずエアコンのある店に行かれたようです(爆)
マークさんとも一回お会いしてみたいです
本日横浜地方は雪が降っております
ではでは
Posted by Hさんの知人 at 2015年02月05日 13:55
>Hさんの知人さん
はじめまして。コメントありがとうございます。
今年は関東も雪がよく降るようで、大変だとお察し致します。先日日本に行ったばかりですが、南国体質の自分にそこは、もはや極寒の流刑の地のようでした。雪にとても憧れている娘に、一度あの寒さを体験させたら、どんな反応を示すだろうかとても興味があります。
風邪などひかぬよう、フィリピーナの奥様共々お気をつけ下さいませ。
Posted by Mark at 2015年02月06日 05:36
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