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マレーシア奮闘記:カテゴリの記事一覧です。

2020年05月09日

コロナの恩恵?

 マレーシアのあるセミナーで教えられた。
「緑は進め、赤は止まれ、黄色は急げだ」
 え? マレーシアではそうだったの?
 しかしみんなの笑いが起こり、ジョークだと気付く。
 周りのみんなが笑って話し手の中華系マレーシア人はご満悦。
 そもそも緑じゃなくて、青でしょうよ、信号は。
 しかしここでは緑だ。実際の信号の色を確認すれば緑だし、仕事の件でも判定タイミングでは、グリーンライトが出ているとかいないと表現することたびたび。
 言語は英語。
 アメリカ人と違い、ジョークは余り上手じゃない。
 お互い身体に染み付いている文化も違うから、内容がジョークか真剣かもときどきよく分からない。
 関東人が大阪の吉本新喜劇を見ているときのように、笑うツボも分からない。
 なぜここで笑う? となる。
 英語の発音はかなり特殊。
 映画の英語を普通に理解するフィリピン人妻は、ここへ来た最初の一ヶ月くらい、彼らが何を言っているのか分からないとぼやいていた。
 初めて英語で妻に優越感を覚えたマレーシア。
 その妻は現地の発音どころかマレー語まで覚えてしまい、マレー語で会話されるとこちらはちんぷんかんぷんに。
 自分のささやかな優越感は短命だった。
 更に家で家族揃ってアメリカ映画を観ていると、自分を除いた全員(妻と子供三人)が、突然同時に笑う場面によく出くわす。
 もちろん取り残された気分になる。
 子供に、パパ、面白くないの? なんて顔をされると、少し悲しくなる。
 馬鹿野郎、俺は日本人だ!
 お前たちも日本パスポートを持っているなら、もっと日本語を勉強しろ!
 あくまでも心の叫び。
 だから家族揃って有料の映画館には行かない。
 いくら誘われても、みんなが映画を観ている間、自分はコーヒーショップで読書か書き物をする。
 料金を払って大画面の前で寝るより、コーヒーの方が安上がりでかつ有意義。
 妻は自分たちだけ楽しんで申し訳ないと思っているようで、映画へ行くときは遠慮気味。
 こっちは一人になれて、誰にも邪魔されずに好きなことをできるから大歓迎。
 毎週映画を観に行ってくれと思っている。
 それがテレパシーのように伝わり、我が家族の映画館へ行く頻度は少なくない。
 三日連続、なんてこともある。
 人間、一人で生きるのは辛いと思うが、たまには孤独になりたい。それで息抜きができる。
 自分が今の会社へ入る際、一番最初に社長と直接給料交渉をした。
 外国企業だから、給与体系でこうなるという話はない。
 会社がいくら払いたいか、こちらがいくら貰いたいか、このせめぎ合いで金額が決まる。
 僕は月々の生活費がこれくらいかかると正直に申告した。
 その中に、フィリピンにいる妻の家族への仕送り分も含めた。
 これは嘘ではない。給料が少なくても、月々お金は送らなければならない。
 社長は自分をいい夫だと褒めてくれ、それもきちんと給料に織り込んでくれた。
 毎月の映画代も、ここに入れるべきだったかもしれない。これはもう手遅れ。
 フィリピンには、毎月約十万円を送る。
 月々の給料がニ万円とか五万円という土地柄、十万円は充分だろうと考えていたが、思ったよりフィリピン国内物価上昇率が高い。
 倍くらい申告しておけばよかったが、こちらももう手遅れ。
 幸いフィリピンの家族はそれなりに暮らしてくれるから、 Better than nothing(ないよりはまし)と考えてくれたら有り難いと思っている。
 今はコロナ騒動でどこも大変。
 特にフィリピンは厳しく、厳格なロックダウン。規制を守らない人間は射殺も辞さないという大統領宣言通り、既に何人かが警官に撃たれて死亡。
 出歩けなければ仕事へも行けず、その分実入りが減る。勤め人の弟は、どうやらこの時期の給与が保証されていないようだ。
 何でもありのフィリピンでは、珍しくはない。
 それでこちらの仕送りには、目減り分を上乗せしている。
 ああ、コロナ手当が欲しい。
 冗談でそう言ってみたら、会社の方こそコロナ手当が欲しいと言われた。
 それは良く分かる。
 規制のせいで、生産現場の稼働率が著しく下がっている。
 仮に完全稼働しても、物が売れるか分からない。
 よく潰れない、よく社員に給与を払っているものだとこちらが感心している。
 冗談のような話が本当になった。
 暫定で二十パーセントの給与カット。
 平はカットなし。マネージャーは十五パーセントカット。シニアマネージャーは二十パーセント、役員クラスは二五パーセント。
 十五パーセントカットを覚悟していたら二十パーセントという結果で、自分がシニアマネージャーであることを初めて知った。
 コロナの恩恵で、全員シニアマネージャーに昇格したのだろうか。
 申し訳ないと言われるが、会社の台所事情は察して余るものがある。
 Better than nothing(ないよりはまし)と考えることにした。
 このコロナ騒動で、自分の人生に何度目かの転機が訪れそうな予感がある。
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カテゴリー:マレーシア奮闘記
エントリー:コロナの恩恵?
2013年02月09日

マレーシア奮闘記5

 僕は自分の机に座ったプリンスさんの横に椅子を運び、彼にじっくり不良の内容を伝えた。現物も用意し、実際の不良の様子もプリンスさんに見せてあげた。そして僕は、子供ができるだけ高く積み木を積み上げようとしている時のように、できるだけ丁寧に慎重に話を進めた。
「プリンスさん、この内容はとても危険だ。市場でたくさん不良が出たら、プリンスさんはインドに行ったきり問題が解決するまで帰ってこれなくなる。金もすごくかかる。この会社が消えてしまうくらいかかるかもしれない。会社が消えなくてもみんなのボーナスくらい消えると思う。新しい注文も取れなくなる。誰の責任というより会社が大変なことになる。分かる?」
 僕の方へ身体を向けて、前傾姿勢で僕を上目づかいで見ていたプリンスさんは、姿勢をそのままに二度ほど無言で頷いた。
「そしてこの会社にお金がなくなったら、僕は首だ」
 そう言いながら、僕は自分の首を人差し指でなぞった。冗談だと思ったプリンスさんは軽くふふふと笑ったが、僕が真っ先に経費節減の対象になることは自明に理だった。
「まあそれはいいとしても、だからすぐにできる対策を打って僕たちは安心しないといけない。火が噴く前に。火が噴いたら終わりだ。ゴジラさんの吹く火なんてたいしたことはない」
 普段からゴジラさんはなぜいつも怒っているか不思議だと話すプリンスさんは、また少し笑いながらさっきと同じように頷いた。
「サンボさんもアーノルドさんも、まるでそれが分かっていない。もしかしたらプリンスさんも分かっていないかもしれないけどこれは嘘じゃない。長い間メカトロニクスをやってきた僕には、勘で分かる。もう僕の頭の中はレッドシグナルで一杯になってる。ゴージャスなクリスマスイルミネーションみたいだって言っても、モスリンのプリンスさんには分からないかもしれないね」
「大丈夫ね、それ分かる」
「つまり、サンボさんやアーノルドさんと一緒に、どうするかを考えなければならない。それも大至急。この予感が外れたらラッキーだけど、現実になったらやばい」
「オーケー、分かった。それはすぐにやろう」
「それともう一つ、サンボさんはこれをサプライヤーイシューと言うけれど、僕には人災に思える。ほとんど設計不良のようなものだ。まずこの設計にはマージン(余裕)がなさすぎる。そして金型がおかしいと言って勝手に業者に後加工の指示をしているし、金型の変更もしている。更に後加工した品物の寸法が図面と違う。そうすると過去に試験をした製品と今の製品は、もう内容が変わっているかもしれない。つまり既に品質が保証されない状態になっているということだ。これは将来不良が発生した時に、大きな信用問題になる。おたくの製品はだめだということじゃなくて、おたくの会社を信用できないという話になる。そうなると仕事は減る一方だ。しかしこの会社の中には、そう言われても不思議じゃない実態がたくさんある。社内には色々なルールがあるのに、みんな苦しくなるとすぐにそれを無視してしまうしその行為を誰も変だと思わない。まずはそのことを変だと思わなければいけない」
「そうね。でも時間がなくなるとみんなそうなる。時間が足りない。どうすればいい?」
「時間はあるよ。みんな夕方は五時か六時に家に帰る。休みは必ず休んでいる。少し我慢すれば、緊急事態の時にはまだまだ時間がたくさん取れる。設計マージンはないれど、タイムマージンはみんなたっぷりだ」
「おお、マークさん、それ上手ね」
 プリンスさんが、人差し指を僕に向けて照れ隠しのように笑った。
「なにも働く時間を増やせとは言わない。問題が出たらお客さんに説明して、少し日程を変えてもらうように交渉するのだっていい。これは製品の品質を維持するために必要だと言って。こそこそ隠してやろうとするからそうなってしまう。もし言いたくなかったら、自分の時間を少し犠牲にしてがんばるしかない。サプライヤーにもがんばってもらうしかない」
「でもそれ難しいね。プライベートな時間はみんな大切ね」
「それは分かる。フィリピンも同じ考え方だからよく分かるよ。でも痛い目に遭ってふんばりながら人は成長する。最初から無理な日程ではなかったはずだ。時間が足りなくなるのはいつも設計の遅れで全て自分の撒いた種のはずだ。だったらしっかり自分で責任を取るべきだ。すると次はもっと楽に安全に進めようと気を付けるようになる。普通はね。マレーシアはそれが普通かあやしいけれど」
「多分みんな気にしない。みんな逃げようとするし、逃げることを誰も責めない」
「いいよ、僕は僕の考え方をすぐに受け入れて欲しいとは言わない。ゆっくり理解してくれたらいいと思っているし、今はそんな考え方があるということを知ってもらいたいという話だ」
「オーケー、分かった」
「とにかく今は目の前の危険を早く取り除こうよ。本当に僕の首が飛ぶ」
「オーケー、オーケー」
 僕が再び自分の指で首をなぞると、プリンスさんは笑ってそう言った。

 その後すぐに、アーノルドさん、サンボさん、プリンスさん、そして僕の四人で、現在発生している品質問題の件で話し合った。
 アーノルドさんは僕の指摘する問題を認識していたが、すぐに導入できる暫定対策が思いつかないようだったし、それは僕も同じだった。そしてアーノルドさんは、自分は今、既に新しい機種の設計が始まっていて忙しいということを言った。その言葉にプリンスさんが反応した。
「今は新しい機種をやっている場合じゃない。現状品の問題を解決するのが先決だ。なぜ新しい機種をやっているの? それほど日程がタイトなの? 確かまだ余裕があるはずだけど」
 アーノルドさんはそれに対し、口を開けて声のない笑を作りごまかした。ごまかしていることを自覚しているのか、アーノルドさんの顔は赤らんでいた。その様子は普段むすりとしているアーノルドさんが、誰にでもすぐにばれる嘘をつく子供のように見えてなぜか憎めなかった。サンボさんも無言を貫いていた。プリンスさんは呆れた顔を作ったが、敢えてそれ以上追及しなかった。三十分ほどの打ち合わせは、何の結論も出せずに終わった。

 この時の会話で、僕にはアーノルドさんの性質がまた少し見えたような気がした。アーノルドさんは「自分は今のところアイディアはないが、あなたは何かあるか?」と言った。僕は自分なりのアイディアをいくつか並べたが、全て否定された。やる前からそれはだめだと言われてしまった。だめだと言うにはそれなりの理由もあった。それらの理由は僕に納得できるものもあれば、本当にそうかと疑いたくなるものもあった。
 アーノルドさんがその場を離れた後、プリンスさんがぼそりと言った。
「アーノルドはいつもネガティブね。それにコントロールがとても難しい」
 僕はそれにただ、軽く頷くことしかできなかった。僕も普段からアーノルドさんにはどこか物足りなさを感じるものの、どうしてかプリンスさんの言葉に積極的に同調できなかった。アーノルドさんは無責任に問題から逃げたのではなく、どうしていいか本当に分からないから逃げたような気がするからだ。彼は意外と人知れず設計問題に悩んでいることを僕は知っていた。それでもプライドの高い彼には、泥のたまりに落としたコインを這いつくばって探すようなことができないのだ。知らないということや教えてということも言えないのである。
 その後僕が色々とやりだしたので、アーノルドさんは責任が回避できると思い出したのだろうか。ますます消極的に、というよりむしろ面倒なことから回避することに積極的になっているような気がした。
 同時に僕は、現地にいる日本人の諦め体質も分かるようになってきた。この八方塞がり状態に、気を抜くと僕もこの空気に埋没しそうになる。埋没して時が流れるのをただぼんやりと眺めたくなってくるのだ。楽になりたいという気持ちが自分の中で勝ってくるのを、僕はしっかり自覚していた。



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カテゴリー:マレーシア奮闘記
エントリー:マレーシア奮闘記5
2013年02月05日

マレーシア奮闘記4

 プリンスさんが席に戻るまで、僕はもう一つ抱えていた設計問題の解決方法を考えていた。それは現在開発中の製品において、量産期日が間近に迫っているにも関わらず、ある一つの設計問題を解決できずに足踏みしていたやつだった。周囲や日本のメンバーはそのことに焦っていた。お客さんがついて納期が決まっている製品なだけに、開発の遅れは許されない。
 この製品の担当者は、またしてもアーノルドさんだった。この問題については、アーノルドさんもプリンスさんも頭を抱えていたのだ。
 日本側の設計陣は日本側の顧客に対し、この問題は構造上からくるもので、解決するためには設計のやり直しが必要だということをやんわりと説明しだしていた。どうにか今のレベルで承認してもらえないかと、保険として交渉してくれているのだ。インド側の顧客は絶対に許さないと言っているが、インド人も日本本社からの声掛けがあれば折れてくれる可能性があった。
 日本のお客からは、内容は理解したが解決のための努力を見せて欲しいという回答がきた。いくつかの方策を試し、その結果を示しながら限界だと言ってもらわないと簡単に了解できないという、もっともな回答である。その打ち合わせの結果が僕ととしちゃんに報告されていた。

 そのような交渉があることを知らず、マレーシア側では対策について色々と考えていた。敢えてマレーシア側の担当者にそれを知らせないのは、手を抜かれては困るからだった。問題については、日本側のメカニカルエンジニアから解決するための一つのヒントも貰っていた。こんな風にしたら多少は誤魔化せるかもしれないというアイディアである。それに対しアーノルドさんは、サプライヤーが対応できるか分からないから、まずはそちらの確認が先だと譲らなかった。その確認も必要だが、試作をすぐに始めなければ間に合わなくなるからすぐにやろうと言っても、アーノルドさんは動こうとしない。そしてプリンスさんは上と下の板挟みに遭い深く悩んでいた。
 アーノルドさんは、サプライヤーができると言ったら試作をせずに直接金型をいじってしまおうと考えているようだ。しかし僕はそれに反対だった。
 金型というものは削る変更は早くできるが、増やす変更は時間が何倍もかかる。今試そうと思っているアイディアは金型を削る変更なのでそれは良いが、効果がなく失敗だったと言っても元に戻す時間が足りなくなり「THE END」となる。全体のスケジュールを考慮して少し考えたらすぐに分かることであった。それに気付いたプリンスさんやとしちゃんも、一度手作り試作で確認しようと主張したが、なぜかアーノルドさんはそれを認めようとしなかった。
「マレーシアで試作はできないの?」
「この試作はマレーシアで短期間にできない。材料も同じものはないから、やっても意味がない」
「材料が違っても、現状品と改良品の両方を試作レベルで作ることで、改善効果の確認はできるよ。試作は日本でやってもいい。それは僕の責任で最短納期でやってやるよ」
 材料ブロックをデータをぶち込んだNC(数値制御耕作機械)で削りだせば、複雑な形状だって試作は簡単にできてしまう。これまで散々そのようなことをやってきた僕には、決まったものを作るだけなら自信があった。それに対してアーノルドさんは、やはり無言だった。プリンスさんはその横で、やれやれというふうに顔を左右に数回振った。

 僕の役割の一つは、プリンスさんの心の負担を軽減することである。「一つの役割は」と言いながら結局たくさんの役割を担っていることになるが、とにかく期待されて雇われている以上はできるだけ期待に添いたいと考えるのが人情だ。それ以前に僕は、心の温かいプリンスさんをどうにか救ってやりたいと思っているのだ。だからこの問題も、僕はできるだけ早く道筋をつけたかった。
 少しぼんやりしながら何となく問題になっている部品を眺めていて、ふとあるアイディアが浮かんだ。面倒な試作をせずとも、ペーパーを利用し同じ効果を確認できるかもしれないと思いついたのだ。
 問題はある製品のパネル上にある照明問題だった。ボタンが透明樹脂になっており、その透明樹脂全体が光るように設計されているが、ボタンの透明部分を支える白い樹脂の壁が邪魔になり、一部にわずかな影ができてしまうのである。最初からプリズムで光を引きこめばよかったような気がするが、時すでに遅しであった。最終ユーザーから見えるところであり製品の印象を左右する問題であるから、何とか解決したいところである。
 しかしこの問題、影がある部分というのは光の量が不足していて、その他の部分は光の量が多いのである。その輝度の差が影として見えるという問題だった。今は光の足りない部分に何とかして光をもっていきたいと考えているが、逆に光の多い部分を減らしてやれば、輝度が均一にならないだろうか。逆転の発想である。では光の量を減らすにはどうするか。その答えは自分の目の前にあった。僕は普段使用している自分のノートに目がいったのである。
「紙?」
 透明樹脂を支えている白い壁の後ろ側に紙を貼りつけていけば、透過する光の量が減るのではないか。
 早速僕は、サンボさんの机の上にある鋏を無断借用し、ノートに切り取る形を正確に原寸で作図し、それを丁寧に切り取った。そしてその紙をボタンの裏側に貼り付けて、ボタンの裏側から携帯のフラッシュを当てて表側から見てみた。すると予想した通り、影がほとんど見えなくなっていた。しかし当然ながら全体の輝度は落ちている。すぐに回路設計者のところに行き、現在照明用で使っているLEDにどの程度電流を流しているかを確認すると、LEDには現在の二倍まで電流を流せることが分かった。これである程度全体の輝度を上げることができる。
 とりあえず光を遮るところを紙で代用したが、実際に同じ材料の白い樹脂を使い、透明樹脂を支えている天面の厚みをどれくらい増やしたらよいか検討しなければならない。これもすぐにやりたいが、さてどうしたものか。すると答えはやはり僕の目の前にあった。僕の机に、ボタンの試作品がごろごろと転がっているのだ。それを分解しボタンの裏側に貼り付けたらいいではないか。厚みはサンドペーパーで調整できる。何種類かの厚みの板を作り、最適な厚さを見つけたらよい。

 そこまで考えた時に、プリンスさんが席に戻ってきた。僕はさっそくプリンスさんをつかまえ、裏に紙が貼っているボタンと従来のボタンを二つ手渡し、携帯のフラッシュをつけてちょっと見てくれと言った。
 プリンスさんは怪訝な顔をし、それをフラッシュの上に持っていき覗き込んだが、最初は緩慢だった彼の動作が次第に早くなり、二つのボタンを何度も見比べている。そして満足すると横の僕に顔を向け、「なんで?」と訊いてきた。
「裏側を見て」
 プリンスさんがボタンをひっくり返して見てから僕に顔を向けたが、その顔には興奮と喜びが混ざった、なんとも嬉しそうな表情が浮かんでいた。
「マークさん、これ実際のセットですぐ確認したいけどいい?」
「もちろん、僕もすぐに見たい」
 僕たちはすぐに、実験室で暫定試作品を実際のセットに取り付け、それを暗室に持ち込んで問題の影を確認した。対策をしていないボタンが隣にあるので、その効果はすぐに分かった。明るくしたら影が出るかもしれない心配はあったが、携帯のフラッシュのような強烈な光で影が消えているのだから、その心配はそれほど必要なかった。

「明日別のボタンから材料を切りだして、同じように貼り付けてみるよ。それで効果が確認できたら、金型をいじって天面の厚さを増やそう」
「マークさん、グッドメカニカルエンジニアね」
「僕は電気屋で、メカニカルエンジニアじゃないよ」
「でも仕事の仕方を知ってるね」
「ずっと考えていただけだよ。それにまだまだ安心できない」
「でも少し安心したね。この問題はベイリーヘビーだったから。サンキューね、マークさん」
「それじゃ次に、僕の相談を聞いて欲しいんだけど」
「オーケーオーケー、ノープロブレムね」
 僕はプリンスさんに、量産品不良解析結果と対策をどうするかを相談した。そしてこのような問題に対する設計者の意識についても問題提起した。



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