フィリピーナと共に
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国際恋愛:カテゴリの記事一覧です。

2009年06月24日

リン84 運命

突然モナが、少しだけ買い物に行ってもいいかと言い出した。
もう少し散歩を楽しみたい僕は、もちろんと答えた。

モナは馬車道通りから関内駅北口の脇を通り、伊勢崎町方面へ歩いていく。
「ビデオを買いたいんだけど、アコ一人で行くのは怖いから・・」

伊勢崎町の繁華街に出て、そこが良く知っている場所であることに気づきハッとした。
そこに出て初めて、モナの店のポジショニングが自分の頭の中にある地図上で判明した。

そこはリンと出会う前に付き合っていた、ある日本人女性との思い出深い場所だった。
当時は伊勢崎町という場所の名前すら知らなかった。
僕にはリンと出会ってから、その女性を裏切った過去がある。
我ながらひどい裏切り方をしたと思っている。
彼女の言い分などろくに聞かず、まるで逃げるように一方的に別れてしまった。
いや、正確には別れの言葉もきちんと告げることなく、彼女の前から突然姿を消すような終わり方だった。
優しくよく尽くしてくれる女性だったし、僕のことを良く理解してくれ、自分の我がままをいつも明るく許してくれる女性だった。
そんな彼女にひどい仕打ちをした自分は、まるで十字架をいくつも背負ったような負い目を感じたし、いまだにそれを引きずっている。
誤りたいと思っていても、その勇気がどうしても持てずに今に至っていた。

伊勢崎町にはそれ以来初めて足を踏み入れた。
彼女と夜中まで遊んだゲームセンターやカラオケの前を通った時に、その建物や当時のことを鮮明に覚えていることに気付いた。
また重い十字架が僕の上にのしかかってきた。

しかし彼女を傷つけたことは深く後悔していても、当時リンへ傾倒したことは後悔していなかった。
それが元で自分の人生が大きく変化したことは確かだったが、そこにはまるで青春が再来したかのような起伏に富んだ道があり、僕は苦しみながらもそれを楽しんでいたし、生きている実感がそこにはあった。
お金の催促にうんざりしながら、頼られることの喜びを味わい自分の存在意義をそこに感じ取っていた。
平々凡々とした生活こそが普通であると分かっていながらも、リンとの出来事は心のどこかでくすぶっていた冒険心のようなものを常に刺激し、激動の人生こそが自分の生きる舞台であるかのような感覚さえ自分にもたらしていた。


口数が少なくなった僕に、モナがもうすぐだと言ってきた。
そこはフィリピンの飲食物や雑貨・雑誌類が並べられた、10坪にも満たない小さな店だった。
無精ひげが良く似合う壮年の日本人店主が、狭いレジカウンターの前に立っていた。
店の中にはフィリピーナが4・5人いて、その店主にタガログと日本語をミックスした言葉で話しかけている。
店主は彼女たちの言葉を理解しているようで、しっかりと応えていた。
見かけによらずインターナショナルなおじさんのようだった。

モナがそのおじさんに、フィリピンのドラマのタイトルとナンバーをつげ、もう入荷したかという意味のことを尋ねていた。
おじさんは無言でVHSのビデオテープをカウンターの上にどっさりと置いて、モナがリクエストしたビデオテープを宝の山の中から見事に探し当てた。
モナは3本のテープを自分の財布からお金を出して買った。

あらためて店内を回ってみると、如何にもフィリピンらしいものが所狭しと並んでいた。
テラピア(魚)やバゴーン(アミエビの塩辛?)など、僕の知っているものもあったが、これは本当に食べ物かという食べ物もたくさん並んでいる。
口に入れるのは少し勇気が要りそうな、よくスーパーのコロッケコーナーなどで見かける透明プラスティック容器に入っている物を珍しそうに眺めていたら、寄りによってモナがその中の一つを手に取り、レジカウンターへと持っていった。
美味しいから試してみろと後で強要されるに違いないと思ったが、案の定、翌日その通りになった。
モナは時折エレナと一緒にその店に来ているようだった。
お目当てはもっぱらフィリピンのドラマを録画したビデオテープだそうである。

夜中の1時にもなると伊勢崎町の通りも人がまばらになっていたが、その時間にうろついているのは、一癖も二癖ありそうな連中が多かった。
酒の勢いを借りた連中も騒いでいるので、確かにその時間に女性だけで行き来するのは少々危険かもしれない。
モナは買ったばかりのビデオテープを大切にかかえ、これをずっと待っていたんだと嬉しそうに話していた。

ホテルは既にチェックインを済ませていたので、カウンターを素通りしてエレベータに乗った。
部屋は11階の少し広めのダブルルームだった。
高層階で外の喧騒が完全に遮断されている。
静まりかえった部屋の窓越しに見えるネオンやタクシーの往来が、まるで音無しのテレビか映画の映像のようで、それを見ているとそこにいる人たちの悲しみや苦しさが立ち上り、それが街中を覆っているかのように思えてきた。

場所は違うけれど、きっとあのネオンの明かりの下に自分の人生の分かれ道があったのだ。
そこで違った選択をしていれば、その後の人生も大きく変わっていたかもしれないが、人生には誰かが書いたシナリオのようにどうやっても変わらない運命というものが存在し、近道を通るか遠回りするかの違いだけで最後は同じ場所にたどり着くのかもしれないとも思えた。
そう考えた方が、何事に対しても気持ちが軽くなった。
少なくとも、どの道を選択しようとその途上にはそれなりの苦労と幸福があり、ただ形や大きさが違うだけ・・ということは言えるはずだと信じていた。

モナとまた一つの部屋で二人きりになったのは、人生の大きな岐路の一つなのかもしれないと強く感じていた。
それがあまりにも奇跡的な偶然から起きたのだから、モナがいう通りそれを運命と呼ぶしかないだろうという気にもなっていた。

それでも二人の間には、緊張感のある空気の壁が存在していた。
以前であれば当たり前のように二人一緒にシャワーを浴びて、大げさな心の準備などは全く不要だったが、その時は違った。
これが人生の岐路かもしれないという意識がいっそう自分をぎこちなくさせていた。

その日は一人でシャワーを使った。
彼女は既に自分の部屋でそれを済ませてきていたからだった。
シャワーを終えて部屋に戻ると、彼女は既にベッドの中に入っていた。
僕が彼女の隣に潜り込むと、彼女はTシャツの下に下着をつけたままだった。
そのことでその後に及んでのモナの迷いが伝わってきたし、それが僕にも伝染するかのように自分の迷いを誘い込んだ。

沈黙に耐え切れず何かを言いたかったが、何も言葉が出てこなかった。
彼女に何か話し出してくれることを期待したが、彼女にはその意思が全くないように見えた。
部屋の静けさが妙に邪魔くさかった。

しかし結局ことばは必要なかった。
どちらからということもなく、さりげなく無言で交わしたキスを皮切りに、二人の感情が静かに、そして次第に情熱的に絡み合った。
二人の間に存在した遠慮や躊躇が消えうせるまで1分もかからなかった。
彼女が無言だったのは、運命に身を任せてみようと思っていたのである。
それからは感情のなすがままに、疲れ果てるまでお互いを求め合った。

しかしことが終わってから、モナは「また自分に負けてしまった」と言って突然泣き出した。
最初は訳がわからず驚いたが、モナは再び自分が傷つくのが突然怖くなったのだった。
それは僕が明確な意思表示をしないからに他ならなかった。
彼女は僕の気持ちや、これからどうするかを知りたかった。
それを知った上で、寄りを戻したかった。
その気持ちを痛いほど理解していながら、それでもきちんと将来の約束をできない自分が情けなかった。
それでも「つもり」の話はどうしてもしたくなかった。

しかし僕はその日モナと偶然に出会い、ある種の覚悟を持ってその場に臨んでいたことは確かだった。
僕もこの運命に身をゆだねてみようと思っていたのである。
横浜駅で彼女に出会った衝撃が、僕の心に変化をもたらしていた。
それだけあの出会いは僕に強烈な何かを残したのだった。
彼女の涙と言葉が、僕のその気持ちをいっそう強くさせていた。


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カテゴリー:国際恋愛
エントリー:リン84 運命
2009年06月23日

リン83 あやしい二人

彼女の仕事は、店が暇であれば12時には終わるということで、その後も一緒に過ごすことにした。

すぐ近くにあるホテルを予約し、二人でコンビニに行き代えの下着やソックスを買った。
「二人でこんなのを買ってたら、急に泊まることになったのがばればれだよ。これでコンドームを買ったらパーフェクトだよね。」
「ばか!」


夕食は横浜球場のすぐ近くにあるモナお勧めのイタリアンレストランに決めた。
横浜は若い頃に随分と遊びに来たが、主要な場所の位置関係がさっぱり分からなくなっていて、頭の中の地図を再構築する必要がありそうだった。
それでも青春の思い出というものはおぼろげに体のどこかに残っているものらしく、通りをぶらぶらと歩いているだけでそこに何か特別な匂いのようなものを感じ取ることができた。

2階にあるレストランは、大きなガラス越しに窓際に座っている客が外から見えるようになっていた。
窓際に6・7テーブルと壁際にさらに3・4テーブルほどのこじんまりとした洒落たレストランだった。

そのレストランのオーナーはモナの店の客で、彼女とは親しい仲のようだった。
「彼女が男性を連れてきたのは初めてなんですよ」
オーナーがニヤニヤと意味ありげに、モナをちらっと見ながら言った。。

料理はパスタもオードブルもサラダも全てオリジナリティーを感じる味で、本格的なイタリアンだとすぐにわかった。
とても美味しかったが、オーナーに言わせるともっといい材料を使いたいが、リーズナブルな価格に抑えるため我慢しているということだった。
料理の感想をオーナーに述べたことをきっかけに、3人はまるで以前から友人のように打ち解けて話しをしていた。

気さくなオーナーがモナに、彼はあなたの恋人?と聞いてきた。
その問いに彼女が何と答えるのか注目していたが、彼女は「シークレット!(秘密)」とだけ答えた。
もしそれを僕が聞かれていたら、やはり返答に窮しただろうと思った。
二人は一旦別れているので、勝手に恋人同士だと名乗る分けにはいかなかった。


食後のコーヒーを飲みながら、彼女が日本へ来ることになった経緯とその方法を尋ねた。
VISAはイミテーション結婚で取得していた。
驚いたことに、彼女のパスポートも偽造だった。
全く違う名前のパスポートに、彼女の写真が貼り付けてあった。

「こんなの作るのは簡単なの?」
「お金さえ払えば簡単よ」
「なんで名前が違うの?それって危なくないの?」
「だって本当の名前を使うと、アコの戸籍が汚れちゃうでしょ。だから名前もお金を払って買った。それ毎月3万円払ってる。」
「結婚した相手もいるんでしょ?」
「そう、横浜に住んでるおじさん。アコで3回目のイミテーション結婚だって。」
「それもお金払うんでしょ?」
「そうよ。契約金が50万円。あとは毎月5万円ずつ払ってるよ。」
「そのお金はどうしたの?」
「全部借金よ。だからアコ働いてそれ返す。がんばらないと大変よ。でもアルバイトはタレントよりサラリー高いから、何とかなると思う。アパートもお店のだから安いし。」

「どうして突然日本に来たの?」
「わかるでしょ!」
「わからないから聞いてるんだけど」
「あなたに会うためでしょ」
「やっぱりそうなの?」
「なんであなた、それわからないの!」
「そんな気がしたけど、ちゃんと聞いておきたかっただけ」
「ねえ、二人は恋人に見えるかな?」
「たぶん見えるんじゃないの?」
「マガンダ(美人)とポギー(ハンサム)でグッドカップルでしょ!」
「自分で言うなよ!」

彼女は以前より性急さがなくなった。
自分の考えや気持ちをなんでもストレートに解き放ち、そして結論をすぐ欲しがるような性急さのことである。
前は二十歳を幾分過ぎたばかりで、好きだと言われても恋愛ごっこに憧れているだけのような印象があったが、その時の彼女は容姿も話し方にも落ち着きがあり、随分と大人びた印象があった。

「アコも色々勉強してるからそれ当たり前よ。あなたは前のアコの方がいいの?」
「いや、今の方がいいよ」
「それじゃまたアコのこと好きになる?」

突然いたずらっぽく彼女が聞いてくる。
そんなところは以前とあまり変わっていなかった。

「さあ、わからないなぁ」

あまりにも突然の展開に戸惑っていて、自分の逃げ道を残しておきたいという心理が働いた。

「あなたやっぱり冷たいなぁ」
「それじゃもうやめる?」
「やめられないでしょ!アコはそんなに簡単じゃないよ。ねぇ、これから二人の関係は何?友達?愛人?恋人?」

突然確信をつく質問につながってしまった。
僕は何て答えるのが正解なのかわからなかった。
「それ、二人が初めて会った時にいっぱい同じ話をしたね」
彼女の問いに答える代わりに、そんな言葉でその場を誤魔化した。


彼女の働いている店は、メインの通りから少し奥まった分かりにくい場所にある雑居ビルに入っていた。
3階が店で4階が彼女たちが住んでいるアパートになっていた。
それ以外はカラオケスナックやキャバクラが入っているようだった。

モナと二人で店に入った瞬間、店内のフィリピーナ達が明らかにこちらを注目していた。
モナが普段見たこともない客と同伴出勤したのだから、あれは誰だという話になっても不思議ではなかった。

店内は十分な広さがあるものの、壁・照明・ソファー共に年代物で、お世辞にも綺麗な店とは言えなかった。
また男性スタッフが3人ともよれよれの疲れきったおじさん風情で、着ているYシャツまでくたびれているために、好印象とはかけ離れた店の雰囲気となっていた。

モナが着替えてくるまで年配の女性が相手をしてくれた。
15分程して、モナは体にぴったりとフィットするロングドレスを纏って出てきた。
以前の店ではミニスカートばかりだったが、そのときにはハッとするような大人の美しさを彼女に感じた。

「ロングドレス、よく似合ってるよ」
「そう、ここではほとんどロングドレスよ」
「やっぱり大人になったね」
「どう?アコはあなたのタイプ?」
「おーおー、タ、タイプかも・・」
「さっきの彼女はあなたのこといい感じだって・・あなたタイプだって」
「そう?僕はおばさんキラーかなぁ。おばさんに人気があるみたいなんだよねぇ。」
「あ〜、それ分かる気がする」
「そう?あまり嬉しくないなぁ」
「なんで・・・もてないよりいいでしょ!」

その日のカラオケは、彼女との思い出の歌である森高千里の「雨」をファーストソングとして選曲した。
その後も二人の間にできた溝を埋めていくかのように、かつて二人でよく一緒に歌った思い出の曲を次から次へと選曲していった。
彼女は歌い終わる度に、昔を思い出すと感慨深そうに話した。

彼女は一番の友達だと言って、エレナという女の子を紹介してくれた。
他の子には二人の関係は内緒だけれど、彼女にはその日一緒に泊まることも含めて、二人のそれまでの関係を全て話しているらしかった。

エレナは肌の色がやや浅黒いが、すっきりとした顔立ちの美人だった。
フィリピン人というよりは、西部劇に出てきそうな美人インディアンに近く、長くて黒いストレートヘアーがそれをいっそう強調していた。
年齢は28歳と言ったが、それよりも上に感じさせるほど話し方や態度に落ち着きがあり、しばらくの間彼女はモナの良き相談相手になってくれた。
しかしそれから1年半後、まるで別人のように変貌したエレナが引き起こす騒動に僕とモナは共に巻き込まれ、頭を抱えることになる。


店内はほとんど客がおらず、モナは予定通り12時に上がれることが確定した。
僕と一緒に外泊することは、エレナを除く他の女の子達には内緒なので、一旦帰る振りをして近くのコンビニ前で待っていて欲しいと言われた。

僕は馬車道通りにあるコンビニ前で、夜風に酔いを醒ましながら街並みを漠然と眺めていた。
狭い道路を挟んですぐ向かいにはベンツが止まっていた。
運転手が主を待っている。
その容姿から、その筋の人であることはすぐにわかった。
どんな主が出てくるのだろうと好奇心を持って見ていたら、キャバクラ嬢3人と店のママさんらしき人に囲まれて、ちゃらちゃらした若いお兄さんが階段を降りてきた。
運転手はさっと車から飛び出し、その主のために車のドアを開けた。
上機嫌の若いお兄さんは、見送りに出てきた女性達に右手を大きく上げながら車に乗り込み、車がサァーっと発進した。
それでも彼女達はすぐに店に引き返すことなく、しばらく車の行方を見守っていた。
彼はどこかの幹部のお方にしては若すぎるような気がした。
大幹部のご子息かもしれない。
もしかしたら単に売れっ子ホストで、運転手は雇われたチンピラかもしれないなどと考えていた。

一方ではお店が引けた中年ホステスに、酔っ払いの客らしい男性がホテルへ行こうと詰め寄っていた。
ベテランがどれほど上図にその男をあしらうのかと見ていたら、彼女は意外にも男を冷たく無視してその場を立ち去ろうと歩き始めた。
男は彼女にまとわりつくように、何かを叫びながら女のあとをついて行った。
あの二人はその後しっぽりとホテルに入るではないかという気がした。
いや、もしかしたら意外にも二人は夫婦かもしれないと次に思った。

夜の都会の繁華街には、様々な人生劇が転がっている。
見ているだけでも面白いが、それにイマジネーションを加えると、さらに奥深い物語をいくつも創出することができた。

ふと背中をつつかれ、振り返るとそこにモナがいた。
二人でだまって歩き始めた。
やや静まり返った深夜の馬車道通りを、中年男と若いフィリピーナが寄り添ってホテルへ向かい歩いている。
そんな光景こそ、先ほどの男女よりももっと怪しいではないかということに気付いて一人で苦笑していた。

これからどうするか、そしてモナはどんなつもりで僕についてくるのかが気になり始めた。

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カテゴリー:国際恋愛
エントリー:リン83 あやしい二人
2009年06月22日

リン82 運命の再会

そのメールは何の前ぶれもなく突然僕の携帯に届いた。
それはヤフーメールからの転送メールだった。
彼女は僕の新しい携帯番号もメールアドレスも知らなかったので、メール連絡をするときには、ヤフーアドレスかchikkaにメッセージを送るしかない。

それはまぎれもなく日本にいるモナより発せられたメールであったが、彼女は来日に関して、その事を事前に匂わせることすらなかった。
そういえば彼女からの連絡がしばらく途絶えていたことを思い出した。
そろそろ彼女も自分の新しい人生へ向けて歩き始めたのかもしれないなどと思っていたが、まさか日本へ来る準備をしていたなど思いもよらぬことだった。

発信はソフトバンク携帯だった。
以前はまだソフトバンクという会社自体がなかったので、彼女は既に携帯を新しく契約したということだった。
メールには日本に来ていること、横浜のアパートに入居したこと、そして横浜のフィリピンパブで働くことが書いてあった。
お店の名前と自分の携帯番号が書いてあり、会いたい、連絡を下さいと続いていたが、それ以上の詳細については何もわからなかった。

車で1時間もかからない場所に彼女がいるということに、現実味がまるでわかなかった。
それでもそれは事実だろうと考えると、僕は少々困惑ぎみだった。
それは神隠しにあった人間が、忘れた頃に突然目の前に現れることと似ているかもしれなかった。

会いたいということばに嬉しさを覚える一方、厄介なことになったという想いもあった。
彼女が日本に来た目的はやはり自分なのだろうか、それとも単に生活費を稼ぐためなのか。
しかもどうやってVISAを取得したのか皆目見当も付かなかった。

会ってみたい気持ちはあったが、それよりも会ってはいけないという理性が働いていた。
以前彼女をひどく傷つけ自殺未遂にまで追い込んだことがトラウマとなっている。
そんな自分が彼女にきちんと対峙できるかどうか自信がなかった。
彼女がもし、自分への以前と変わらぬ深い愛情をそのまま抱いて日本へ来たとすれば、中途半端な態度では臨めないはずだった。
少なくとも同じ過ちを繰り返すのだけは避けたかった。

幸い彼女は僕の携帯番号や新しい住所を知らない。
全く無視しようと思えばそれも可能だった。
リンとのことに決着が付いていない以上、無視をした方がお互い幸せだと結論付けた。

リンとは例の借金返済事件依頼、コミュニケーションが希薄になっていた。
最低限の送金はしていたが、僕の気持ちがついていかなくなっていた。
お金の話をされるのが怖くなり自然と遠ざかっていたのだが、それでもいつも心のどこかで彼女のことは気にしていた。
だたしそこに愛があるかは相変わらず微妙だった。
リンもあの事件以来僕に対して遠慮があるようで、以前のようなお金の催促は一切しなくなっていた。
中途半端な状況が続き、双方がある程度納得ずくで別れる環境も整いつつあるように感じていた。
そんな中で二人の関係をそろそろはっきりさせたい気持ちもあったのだが、最後の細い糸1本を切ることができないでいた。

モナからは店で働きだしたことや近況報告、そしてなぜ連絡をくれないのかというメールが時折届くようになっていた。
彼女が日本へ来たのは僕に会うためだということも書かれていた。
友達として気軽に会いに来て欲しいと、こちらの胸のうちが見透かされているような言葉まであった。

彼女のけな気な働きかけに僕はいつもどうすべきか迷っていたが、3ヶ月間僕は無視し続けた。

僕はモナの愛だけは心から信じることができた。
彼女は以前、もし僕との恋が終わったら今後は一生独身を貫くということを話していたが、それもまんざら嘘ではないかもしれないとさえ思っていた。
誰からも好かれる明るくて思いやりのある性格にも惹かれていた。
それでも一歩踏み出せない自分が不思議だった。
モナと寄りを戻し、それをリンと決別するための踏み台にしようかとも考えたが、意図的にそれを実行することは自分の心が許さなかった。
このままずるずると無視を続け、モナがいつの日かフィリピンへ帰ったら、本当にそのまま終わるだろうと考えていた。


しかし彼女が僕を運命の人だと言ったその言葉を、まざまざと考えさせられる出来事が不意に起こった。
それはまさに運命のいたずらとも言うべき、奇跡的な出来事であった。

その日は東京での仕事が早々と終わり、たまたま東海道線から横浜経由で自宅へ帰ろうとしていた時だった。
普段は田園都市線を使うのだが、その日に限って品川で打ち合わせが入ったために帰りをそのルートにしたのである。

横浜駅で一旦改札を出て相鉄線に向かおうとしたその時、正面にいる一人のフィリピーナの姿が僕の足を止めた。
それは紛れもなくモナの姿だった。

昔と変わらないジーンズの上下に帽子を合わせた彼女の姿を見かけた時には、まるで稲妻が体を通り抜けたかのような衝撃を覚え、僕は思わず立ち尽くしていた。
大勢の人間が僕を邪魔者扱いするかのように、左右に分かれ先を急いで追い越していった。
かつて八景島のシーパラダイスで初めてデートした時と同じ姿の彼女が、自分からほんの5m先に立っている。
その姿を見た瞬間、僕の中の時間がまるで逆流したかのような錯覚を覚えた。
あの屈辱の1年間さえも逆のぼり、何事にも順風満帆で幸せな日々を送っていたあの頃に戻った気分になった。
人生ってやり直すことができるのかもしれないなと実感した瞬間だった。
僕はその信じられない再会に、本当は涙がでるほどの嬉しさがこみ上げてくるのを感じていた。
彼女は辺りをきょろきょろと見渡していた。

次の瞬間、彼女が立ち尽くす僕に気が付いた。
おそらく目が合った。
逃げるつもりは毛頭なかったが、僕はわざと右の手のひらで顔を隠し、彼女の前をそそくさと立ち去るように早足で歩いた。
予想通り彼女がそれを早足で追いかけてきた。

「マハール!マハール!」

僕は立ち止まって、振り向きざまに顔を覆っていた手をどかした。
「あれ?どうしたの?なんでこんなところにいるの?まさか僕がここを通るの知ってた?」
「やっぱりマハルだ。なんで逃げる!」
「逃げてないよ。ただ急いでいただけ・・ははは」

ばつの悪かった僕は、こうして突然の再会の場面を何とか取り繕うことができた。

「あ〜良かった。アコ(私)、ショッピングに来て迷子になってた。」
「Very very long time no see!(久しぶり)元気そうだね。」
「なんで連絡くれないの!アコずっと待ってたよ!」
「そうか、でもここで会ったよ」
「たまたまでしょ!」
「そう、ものすごい偶然。Lotoが当たるのと同じくらいね。」
「偶然ってなに?」
「Casual meeting いや、これはMiracle chanceだなぁ。」
「そうよ。あなたはアコのディスティニー(運命の人)だから。」
「それまだ信じてるの?」
「オーオー(Yes)、アコ毎日神様にお願いしてたよ。」

そう言いながら、一足遅れで彼女の目から涙が溢れ出てきた。

「ばか、こんな所で泣くなよ。僕が泣かせてるみたいじゃない。」
「だってあなたのせいでしょ、アコ泣いてるの」
「まあ、そうだけど・・」

彼女の住まいは関内だということで、とりあえずそこまで移動した。
馬車道通りのコーヒーショップに入った二人には、話すべきことが山積していた。
話題は砂漠の砂の数ほどあるように思えた。
彼女は夜から仕事だったが、同伴扱いにすることで、時間の許す限りプライベートな時間を二人で満喫することにした。
劇的な再会が、二人の心を一気に開かせていた。

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エントリー:リン82 運命の再会

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