フィリピーナと共に
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2009年06月01日

リン66 反撃

セブの夜は、どこにいても官能的な雰囲気が先行し流されすい。
それは普通の食事をするレストランにいようと同じことだった。
ひとたび外に出てネオンに出会うと、一瞬でその雰囲気に支配されることになる。

セブは、昼と夜の空気が見事に180度変わる街だった。
昼のぎらついた太陽光に照らされた街並みを見ながら、なぜセブの夜はあんなに怪しげな雰囲気が充満するのだろうと考えていた。
それはきっと、セブがマニラのように近代化されておらず、夜には静けさや寂しさが残っているせいではないかと思った。
マニラのその手の場所は新宿歌舞伎町のように、夜になると街全体にあからさまないかがわしさが出現し、いかにも歓楽街といった賑やかさになる。
しかしセブのそれは、ひっそりとしたいかがわしさになるのである。
バーやカラオケが街全体に点在しているからでもあったが、ネオンが比較的集中している場所でも同じだった。
車や人通りの少ない場所にポット浮かび上がるバーの明かりが、なまめかしい宮殿に見える。
それが神秘的であり、より官能的な世界を演出しているのだった。


僕は仕事を半日で終え、ホテル近くの道をカオナグリルに向かっている途中だった。
ほんの少し外に出ただけなのに、首筋には汗が流れ落ちていた。
しかめっ面をして目を細めていないと、過度に目を刺激する容赦ない太陽光線が耐えられなかった。

カオナグリルは以前にもこの話に登場した、バーベキューレストランである。
宿泊ホテルのマリオットからは、アラヤショッピングモールの脇を通り、歩いて5分足らずの場所にあった。
レストランに到着するなりサンミゲルビールを注文し、それを一気に半分飲んで一息ついた。

朝一旦アパートに戻ったリンは、まだ来てはいなかった。
時間通りくるはずはなかったので、それは最初から想定していたことだった。

昨夜再びリンと肌を合わせてしまったことを考えていた。
おそらくリンとは、こうしてずっと離れることなく続いていくような気がしていた。
いくら喧嘩をしようがののしり合おうが、最後に行きつくところはいつも同じで決まっていた。
これから先も、二人で食事をし酒を飲み、あの怪しげな通りを横目で見ながらホテルへ帰り同じことを繰り返すのだろう。
かつてモナが僕のことを運命の人だと言ったが、僕とリンのこのような関係こそを運命と呼ぶべきではないかと思えた。
実際にいくら一人で悩んでも、結局はリンと一緒にいることに納得している自分がいるからだった。

決して僕は、昨晩の二人の話し合いや部屋でのことを悔いていたわけではなかった。
リンには一番大事なお金の話をし、自立することを考えてもらうきっかけを作ったのだからそれでよしとしていた。

それよりも引っ掛かっていたのは、リンの「秘密」という言葉だった。
なぜモナと電話で話しをしたことを僕に内緒にしていたのか、それをリンに尋ねたときの返事のことだ。
敢えて秘密と言ったからには、その裏に何かがあるような気がしてならない。
それほど重要なことではないかもしれないと思いつつも、気になっていた。
しかしリンに尋ねたとしても、彼女が簡単に口を割るとは思えなかった。
その点はモナの方が扱いやすいように思えた。

ふと後ろから抱きつかれ後ろを振り返ると、すぐ横にサングラスをかけたリンの顔があった。
「よー、久しぶり」
「久し振りね。半日ぶりかしら。」
「まだそれしか経ってないの?3日くらい会ってないような気がするなぁ・・・」
「WOW! なんてロマンティックなの」

「何を飲む?マンゴシェーク?」
「イェス」
「食べるものは?」
「それは後でいいわ」

僕は二人分のドリンクをオーダーしにカウンターへ向かった。
カオナグリルではカウンターでオーダーをし先にお金を払う、ファーストフードのようなシステムになっている。

二人のドリンクがテーブルへ届けられてから僕は言った。
「ハニー、明日マニラに戻ることになったんだ」
「ほんと!なんで?」
「モナと話をするために、無理やり仕事を作った」
「モナと会う?なんの話をするため?」
「なんでメールを送ったりしたのか、問いただすためだよ。もうそんなことはやめてくれって言わなきゃならないでしょう」
「そんな話ならわざわざしなくていいわ。わたしは気にしてないから・・・」
「いや、僕は気にしてる。もう二度とそんなことはして欲しくない。」

リンの表情が冴えなかった。
マニラに行くという話はとっさの作り話であったが、本当に休暇を取ってマニラ経由で帰国してもいいと思っていた。

「ハニーがマニラでモナと会うのはだめよ。それだけは許せない。それだったらわたしもマニラに一緒に行く。」
「それは無理だよ。3人で会うなんてことはできない。」
「それじゃわたしはホテルで待ってる・・」
「でも僕がモナと話をして、もし何かわかったら僕はホテルには戻らないかもしれないよ。それでもよければいいよ。」

「ねえ、どうしてもマニラに行くの?」
「このままだと僕も気持ちが悪いからね」
「・・・・・本当に?」
「もしハニーが本当のことを教えてくれたら、マニラに行くのはやめるよ。二人の話をちゃんと僕に教えてくれる?」

そこでようやくリンが重い口を開き始めた。
夜はいつも僕が敗北するが、その時は太陽が見方をしてくれたかのように事がうまく運んだ。

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カテゴリー:国際恋愛
エントリー:リン66 反撃
2009年05月31日

リン65 第2ラウンド

あの晩思いがけずボルボへ行き、キムと久しぶりに再会し二人で次々とお酒を飲んだ。
今振り返ると、あれがキムと最後に会った夜になったのだ。
彼女は僕があげた2500ペソを握りしめて、マニラへ行ったのだろうか。
もしかしたらマニラへ行くなんてことは嘘で、実は家族のためにあのお金を使ったのかもしれない。
お互いに携帯番号を知らないので連絡の取りようもなく何年も経過しているが、あの強烈なキャラクターは今でも忘れようがない。本当に不思議な女だった。

次の日は朝から陽射しが強く暑い日になったことを覚えている。
そう・・・、僕はふらふらと起き上がりながらミネラルウォーターを飲み、前日に起こったリンとのことを徐々に思い出すところからその一日がスタートしたのだった・・・・。
当時の情景がまた蘇ってきた。


だるい脚でよろめくように窓辺に近づきカーテンを開けると、太陽光線が僕の目を直撃し頭がズキンと痛んだ。
どうやら少し飲みすぎたようだった。
椅子にどんと腰を落し、タバコに火をつけた。
タバコを吸いながら、昨夜キムと一緒に飲んでいたことを思い出した。
いやその前に、チャーコールでリンと一悶着あってからキムに会いに行った。
もうろうとする頭の中にかかっていた霞が、次第に晴れてきた。

何か大事なことがあったはずだ・・・そうだ、僕とリンはモナの話でもめたのだ。
彼女は自分をまだ愛しているなら電話をしろと言っていた。
僕はリンとのことから逃げだすようにボルボへ行った。

とりあえずシャワーをし、仕事へ出かける身支度を整えた。
鞄を持って1階に降り、レストランでコーヒーを頼んだ。
昨日は逃げたが、今日もまた逃げるわけにはいかない。

僕はコーヒーで頭を活性化させながら、昨晩のチャーコールでの出来事を回想し、なぜこんなことになっているのかを考えた。

二人の今後について話をするはずだったのに、モナのメールのおかげで話題がそれた。
それはリンが意図して話をそらしたかもしれないと思った。

なぜモナはリンにメールをし、二人は話をしたのか。
モナがリンにメールを送ったのはいつだったのか、そして二人はどこまで踏み込んで話をしたのか。
最大の謎は、なぜ二人がそのことを僕に黙っていたのか。

僕は二人に試されているのか?もしかしたら二人の間に何か密約があるのか。
いや、もっと卑しく考えれば、自分をネタに二人の間で賭けをしているかもしれなかった。
こうしている間にも、二人は連絡を取り合い情報交換をしているかもしれない。

ふとキムの単純さを羨ましく思えた。
キムであれば、自分をそんなに緻密な方法で追い込むような真似はしないだろうと確信できた。
リンもモナも頭のいい女だ。
そんなところも魅かれた一因だったのに、今はそれに悩まされていた・・あの二人だったらやりかねないと。
二人の女が笑いながら僕を見下ろしている光景が浮かんできた。

その日はいやなことを忘れるために、敢えて精力的に仕事をした。
普段ならこだわらない細かいところもチェックを入れ、不具合のあるところは自ら率先して修正した。
そのおかげで、皮肉にも時間が経つのが早かった。

僕は仕事が終わってから、覚悟を決めてリンに電話を入れた。リンは2コールですぐに応答した。
「ハニー、昨日はごめん、まだ怒ってる?」
「もちろんまだ気分は悪いわよ。でも電話をしてこないより、してくれたからまだいいわね。電話をしてくれたってことは、わたしのことをまだ愛してるってことでしょ?」
「そう・・、たぶん・・・それじゃ今夜は久しぶりにラテゴラで食事しない?」

ラテゴラは、地元の高級イタリアンレストランだった。
かつて僕がリンをそこへ連れ行き、リンが緊張をして話しもせず、食事ものどに通らなくなった店である。
何度か通っているうちに、リンもそこで気軽に食事をすることができるようになっていた。
リンは一緒に食事をすることを承諾し、ラテゴラで7時に待ち合わせをするということで電話を切った。


少し暗めの照明が用いられ、濃いブラウンの木製クラッシック調インテリアで統一されたラテゴラの店内は、ヨーロッパの雰囲気が再現された静かで落ち着いたスペースになっていた。
二人はフレッシュマンゴジュースとビールで乾杯をした。
「何にかんぱい?二人の仲直り?」
「そうだね」

リンは普段お酒を飲まず、頼むのはほとんどがマンゴシェークかマンゴジュースだった。
僕は炭酸系のお酒は苦手だったが、フィリピンのサンミゲルビールはバドワイザーと同じく軽くて飲みやすいので、食事の時にはほとんどそれを飲んだ。

「昨日はごめんなさい。最近わたし少し血圧が高いせいか、怒りっぽいかもしれない。歳をとったのかもね。」
リンが先に昨日の話題に触れた。

「怒るのが普通だよ。もしあんな話をしていてずっとスマイルだったらそのほうが怖いよ。でもここは気分が悪くなっても、派手な喧嘩できないからね。チャーコールとは違うから。」
「わかってるわよ」

オーダーした料理はミートソーススパゲッティー(そこではボロネーズと書いてある)、シーフードサラダ、ステーキ、アペタイザー2皿、そしてトマトスープを2カップ。
本場のイタリアや本格的なイタリアンレストランでは、スパゲッティーやパスタ類は主食ではなく前菜扱いで、メインは子羊のなんとか焼き等々の肉料理となる。
しかし小食のリンと二人では、パスタとメインそれぞれを一皿ずつ頼んで二人でシェア(分け合う)しても多いくらいだった。
それにしてもラテゴラのトマトスープは絶品だった。
にんにくを十分ローストして、それと濃厚なトマトを混ぜ合わせていることだけは分かるのだが、何度か自分でチャレンジしても、どうしても同じ味を出せなかった。
日本で美味しいと言われるイタリアンレストランでも、これほど美味しいスープを飲んだことがないくらいの逸品だった。

その日は食事をしながら、積極的に話を進めた。
「ハニーは昨日ひとつ約束を破ったよね。怒らないって約束したのに帰っちゃったでしょ。だから今日はペナルティーで、もし頭に来ても2回までは我慢すること。オッケー?」
「今日はいくら気分が悪くても、最後まで話しを聞くわ。ハニーが帰れっていっても帰らないわよ。」

最初から何か違和感があると思っていたが、それはリンが妙に冷静であるということだった。
そして最後まで居座ると言われ、逆に軽い悪寒を覚えたが、気を取り直して話を続けた。

「ハニーはモナと話をしたことを、なぜ僕に黙ってたの?」
「いきなり重い話題ね。でもそれは言えない。秘密。」
最後の「秘密」は、リンがおどけた言い方で、言葉の最初にイントネーションを持ってくる「シークレット」だった。
それが秘密ということは、きっとモナと何かを話している。
完全に余裕で受け答えしているのがその証拠だ。きっと何かを隠している。

「わかった、それじゃモナと何を話したかも秘密なの?」
「それはいろいろたくさんって、昨日教えたでしょ!」
「たとえば?」
「彼女の家の話でしょ!子供のお父さんとのこと、兄弟のこと、マニラで働いていたこと、そして日本で働いていたこと、そこであなたに会ったこと。それで全部よ。」
「なぜそんな話になったの?」
「わたしと彼女は、あの時から友達になったからよ」

それは嘘だと思った。リンは昨日の夜、明らかにモナに敵対心を抱きながら話をしていた。

「あの時っていつ?」
「あなたモナと喧嘩したでしょ。それでもう会わないって彼女に言ったんでしょ?その後だと思うわよ。」
「その話も知ってるんだ。だったらもう、モナの話はいいでしょ。モナと寝たことは謝るよ。それでもどうしても許せないというなら、僕はハニーと別れるしかないな。」

「ほんとう?」
彼女は「really?」と言い、テーブルに身を乗り出すような気配で、僕に突き刺すような視線を投げかけてきた。

僕の息が詰まりそうになった次の瞬間、リンは張りつめた風船の空気を突然抜くかのように肩の力を抜き言った。
「オッケー、そのことは忘れるわ。男の浮気はノーマルだっていったでしょ!あなたが最後にちゃんと戻ってくるんだったら、今回は許すわ。でも今回だけよ。もし次に浮気をしたら、あなたのあれをカットするわよ。」

僕はさっきの発言をした直後に、大失敗をしたことに気がついていた。
もともと少し距離をおかないかという話をしにきたはずなのに、僕は彼女に、あなたが許してくれないなら分かれるという条件を出してしまった。
だから彼女が何というか、固唾(かたず)をのんで見守っていた。
彼女がその条件をのんでしまった今、僕には次の言葉が見当たらなくなってしまった。
それでも僕は一呼吸置いてから勇気を出して言った。

「ハニー、僕は今回別れ話を相談するためにセブにきたんだ」
「それは何となく昨日気が付いてたわ」

「ハニーは今の話を聞いて驚かないの?」
「だってハニーは昨日、チャーコールでその話をしようとしてたでしょ。わたしもアパートに帰ってからいろいろ考えたからわかるわよ。でもそれはもう決めたことなの?」

リンの最後の言葉に先ほどまでの余裕は無くなっていた。
こうなると僕も強気の発言はなかなかできなくなってしまう。

「まだ決めたことじゃないよ。だから相談したいって言ってる。僕はあなたの僕に対する愛を疑っている。いつもそのことで考え事をしていると疲れるんだ。」
「あなたはいつもそれを言うわね。わたしはあなたのことを愛しているわよ。それは心からよ。あなたがそれを信じられないだけよ。」
「そうかもしれない。でも時々本当にわからなくなる。そんな風に感じるから仕方ないよ。」

「それじゃわたしはどうすればいいの?それがわたしなのよ。たぶんそれはわたしの性格のせいで、愛があるとか無いということとは関係がないわ。あなたはわたしに愛がなくなったの?」

「愛がなくなったかどうかはわからないよ。でもハニーのことを真剣に心配しているのは前と同じだ。」

「わたしと別れてモナのところへいくつもり?もしそうだったら、それだけはアクセプト(容認)できないわよ。」
やはり本音ではモナのことを相当意識しているようだった。

「ハニー、モナのことは関係ないよ。正直に言うとね、あなたは僕にとって特別な人だよ。家族みたいに思ってる。その気持ちはこれからも簡単には変わらないよ。だからもし別れても、生活はできるだけサポートしたいと思ってる。それは僕の正直な気持ちだよ。でもお金がいっぱいあるわけじゃないから、サポートも厳しくなってきた。僕はあなたの生活のサポートができなくなった時のことを考えると、すごく心配になる。」

僕は自分の預金残高の話しと、月々の給料やボーナスを手取りでどの程度もらっているか具体的に話しをした。

「フィリピンの人は日本人をすごいお金持ちって思ってる。あなたたちは僕たち日本人が毎月100万円や200万円のサラリーをもらってると思ってるでしょ?でも会社の従業員のサラリーは、みんなが思っているほど多くはないよ。僕のこのサラリーだって日本の中では多い方だと思うけど、それでもこのくらいなんだよ。だからハニーがすごい期待していたり、僕が余裕でハニーをサポートしてるって思われると怖くなるんだ。」

リンは預金残高の話にはショックを受け、それは自分のせいだと謝ってきた。
サラリーの話については、そんなに過剰な想像や期待をしているわけではないから心配しないでと言われた。
そして少しは真剣に毎月の送金について考えてくれそうな気配があった。

とにかくリンには自立して欲しいことを伝え、その後はリンの就職の事を中心に話をした。
リンはケアギーバーの学校を卒業し、あとはいくつかの実習をこなせば資格を取ることができる。
就職はやはり、その道に進むのが現実的であった。
リンは、就職先は日本がいいと言ったが、僕は給料の高いカナダもお勧めだと言った。

別れ話はどこかへ行ってしまったが、僕は自分のありのまま気持ちをリンに伝えることができたことで、気持ちが少し楽になっていた。
二人はラテゴラで食事をした後、いつものようにリンの古巣であるエクソティカへ行った。
そこへ行くと、二人はいつも我が家へ帰ったような感覚になり不思議と落ち着いた。
そこが二人の出発点だったからかもしれない。

リンはその日、当然のように僕の部屋まで一緒についてきてホテルに泊まっていった。
それを許した僕は、それが自分の弱さ故なのかそれとも自分の意思なのか、自分で自分がわからなかった。
リンに上手にあしらわれている可能性もあった。
最初はリンの心と自分の心を探っていいたはずだったのに、僕はまたしてもいつの間にか彼女の体に溺れているのだった。

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カテゴリー:国際恋愛
エントリー:リン65 第2ラウンド
2009年05月30日

リン64 久しぶりのキム

僕はチャーコールから出て行ったリンを追いかけた。
大通りまで人気のない薄暗い道を、リンが早足で歩いている。
僕は彼女が大通りに出る前に、リンに追いついた。

「ハニー、アパートまで送るよ」
「必要ない。一人でタクシーに乗ってかえる。」
彼女は歩くスピードを緩めることもなく、行く先の大通りをまっすぐ見据えながら答えた。
「・・・・ わかった。それじゃタクシーを拾うところまで。」

彼女は「勝手にどうぞと」言わんばかりに無言で歩いていた。
そして大通りに出てから自分で手をあげ、滑りこんできたタクシーにそそくさと乗り込んで行ってしまった。
彼女が自分のアパートに帰ってくれたことはある意味助かったが、想定外の話で彼女の感情を逆なでした結果には呆然とするばかりだった。

僕が立っていたその場所には、セブでも大きな部類に入るKTV(カラオケ)がある。
女の子が50人以上はいるであろうそのカラオケには、以前何度か行って朝まで飲んだことがあった。
気晴らしにふらりと入ってみてもよかったが、さすがにカラオケで騒ぐ気分ではなかった。
その時は赤々揺れるように光っているKTVというネオン文字が、哀愁を帯びた寂しげな文字に見えていた。
この中ではどんちゃん騒ぎが催されているのだろうと思うと、自分の境遇を呪いながら僕の気分は沈む一方だった。

ふらふらとホテルの方向へと歩いていたが、どうしてもホテルの部屋には帰りたくなかった。
しかし夜道を一人でぶらぶらしているのも危険だった。
静かにお酒が飲める場所はないかと考えたが、僕はそんな気の利いた店を知らない。
そしてふと、以前仲の良かった女の子のいる店に行こうと思い立った。

タクシーを拾い、Volvo(ボルボ)というビキニバーの名前を告げた。
本当に久しぶりだった。
店の入口には拳銃をもったガードマンが立っていて、一応ボディーチェックを受ける。
ガードマンが開けてくれたドアをくぐると、薄暗い店内は騒音のようなミュージックで満ち溢れていた。
店の中央に半円のステージがあり、それを扇状に囲むように客席テーブルがある。
きらびやかな照明に照らされたステージ上では、ビキニの女の子が10人程踊っていた。
適当にソファーに座ると、すぐに店のママがやってきて僕の隣に座った。
ママは35歳前後で、昔は相当男に貢がせたのではないかと思える美人タイプだった。
少し歳の離れた妹がいて、日本で働いているというような話しを以前聞いたことがあった。

「久し振りね。どこに行ってたの?」
「え?僕のことを覚えているの?」
「もちろん」
「ねえ、キムはまだここにいる?」
「ええ、いるわよ。ちょっと待ってね、今呼んでくるから。」

そう言ってママは店の奥へと消えていった。
(そうか、キムはまだいるのか・・・)

キムはおもしろい女だった。

何度か一緒にディスコへも行ったが、僕の部屋にもよく遊びに来ていた。
それも店からの連れ出しではない。
彼女は仕事を終えると、夜中に僕に電話をし、これから行ってもいいかと聞いてくる。
寝ている僕が明日は仕事があるからと断っても、彼女はしつこく食い下がり結局は部屋に遊びにきた。
そして部屋へ入るといきなりズボンを脱いで、Tシャツ一枚の姿でホテルが置いてある有料のスナック菓子を無造作に手に取り、僕が寝ているベッドの横に入り込んでくる。
そしてスナックを食べながらテレビを見始めるのだ。
僕が彼女のその様子をポカンと見ていると、あなたは明日仕事だから早く寝なさいと言われた。
最初は下着姿の彼女にドキドキしてなかなか寝付けなかったが、彼女はお構いなしであった。

次の日朝起きると、彼女は死んだように眠っている。
僕は彼女を起こさないように仕事へ出かけ、夜部屋に戻ると彼女はもう消えていた。

ルームサービスを頼んだ形跡がありホテルへ確認すると、お金は本人からもらっていると言われた。
殊勝なところがあると感心し後日キムにそれを言うと、宿泊者本人のサインがないと部屋にはチャージできないと断られたから、仕方なくお金を払ったと彼女から言われ苦笑した。

一度は日本へ突然電話をかけてきたこともあった。
僕の友達がボルボへ行った時に、彼はキムに捕まり電話を貸せと脅された。
「お願いだから貸してじゃないんすよ。貸せですよ、貸せ。命令なんですよ。なんなんですかこの女は・・こわいですよ」
彼は、こんな女を手なずけることができるのはあなたしかいないと言い添えて、その電話をキムに渡した。
その時キムが僕に言ったのは、開口一番「今度セブに来る時には結婚指輪を持ってこい」だった。
僕は聞き間違いかと思い「結婚指輪?」と聞き直した。
そうだとわかったので、次に確認したのは「それは僕とあなたの結婚指輪か?」だった。
キムはそれもイエスというので、「それは無理だよ」と断ったら、彼女は一言「オッケー」と言って電話をブチっと切った。

若くてきれいな顔をしているのに、その言動はきわめてぶっきらぼうだった。
それでも不思議と彼女は正直な気がして、僕はいつの間にかキムに気を許していた。
しかしリンと付き合うようになってからはボルボに行かなくなり、僕の携帯番号も変わっていたから、二人の不思議な関係は自然と解消していた。

そのキムが僕の席にやってきて隣へ座った。
僕が「久し振り」と声をかけても、彼女は反応せずにじっと僕の顔を見ていた。
そして言った。
「あなたはわたしの昔の恋人に似てる」
「ん? その人は日本人?名前はなんていうの?」
「日本人で彼の名前はMark」
「は?そのMarkさんはいつもマリオットホテルに泊まっていたMarkさん?」
「そうよ、なんで知ってるの?」
「僕の名前もMarkって言うんだけど・・・」
「え?あ〜、Mark!」
そう言って彼女は思い切り僕に抱きついてきた。
(相変わらず変な奴だなぁ、でも僕はいつからキムの恋人になったんだ?)

「最初すごい似てる人だなぁって思った」
「普通は似てるじゃなくて、本人かなって思うでしょ。お前は相変わらずバカなやつだな。元気にしてた?少し太った?」
「わたし今大学に行ってるよ。だからこの店のアルバイトも毎日じゃないの。今は週に3回しかいないから、わたしのいない時に来たらだめよ。」
「そう、大学に行ってるなんてがんばってるね。それでいつならここにいるの?」
「木、金、土だけ」
「そうか、それじゃ僕は今日来てラッキーだったね」
「わたしもラッキーよ。だって今お金が必要だから。ねえMark!お金ちょうだい!来週マニラに行かなきゃならないけどボート(船)のお金ないの・・。あとであなたの部屋に行くから・・。」

部屋に行くとは、体を提供するという意味だった。
かつて彼女からお金の催促だけはされたことはなかったから珍しいと思った。
「部屋には来なくていいよ。それでいくら?」
「2千ペソ(4千円)」
「それだったら今持ってるからあげるよ」

僕は誰からも見えないように、財布から500ペソを要求より1枚多い5枚出して、こっそり彼女に握らせた。
「ありがとう」といい、彼女はそのお金をブラジャーの中にさっと挟み込んだ。

僕はいつもそんなに気前がいいわけではない。
あの手この手を使いお金をせびるような女の子には、お金をあげることはなかった。
あげたとしても、少額のチップ程度だった。

キムはそんな駆け引きをせずにストレートにお願いしてきたし、昔のよしみもあった。
そしていきなり優鬱な気分を和らげてくれたキムへのお礼のつもりでもあった。
しかし彼女は「後でお店に内緒であなたの部屋に行くから・・・」と体で返すようなことをいうので、僕はそれを丁重に断った。

「あなたどこかで浮気してたでしょ」
「浮気?僕はあなたの恋人なの?」
「そうよ。なんであなたはそれ知らないの?」
「そ、そう?」
(分かれと言う方が無理があると思うけどなぁ・・・)

「長い間わたしを放っておいて、あなたはひどい人ね」
「そうか、それはごめん・・・で、でもねキム、僕はあなたの恋人じゃないと思うんだけど・・」
「あなたはいつわたしと別れたの?わたしはあなたから別れの言葉を聞いてないわよ。」

それを言うなら、いつ恋人になったのか、僕の恋人宣言をお前は聞いたのかと言い返しても良かったが、キムに対してまじめに反論する気にはなれなかった。
むしろ彼女の言い分を面白い感じていた。
恋人なのにさっきは僕をわからなかったじゃないかと言いたいのをこらえながら僕は言った。

「僕にはあなたじゃない恋人がいるよ」
「セブに?それだれ?ちょっとあなたの電話見せて!」
「だめだよ。電話は見せられない。」
「なんで秘密にするの?」
「だってあなたは僕の携帯にある番号に電話するでしょ?」
「電話するから見せて欲しいのよ。電話をだしなさい。」
彼女は両膝をソファーの上にのせ、自分のウエストの両サイドに手をかけながら僕を睨めつけるように言った。
その姿を思いがけずセクシーだと思いながら僕は言った。

「だから見せられないんでしょ」
「そっ、わかった」

しつこ過ぎないのがキムの良いところだったが、彼女は少しへそを曲げ僕に背中を向けてしまった。
僕はそんなキムに構わず、ステージの上で踊っている女の子達をうつろな気分で眺めていた。

考えごとをする時には、騒音が鳴り響く場所の方が意外に良かったりした。
賑やかな場所で自分の世界に閉じこもっている時は、静かな場所に一人でいるより孤独になれた。
しかも誰もいないホテルの部屋では、いつの間にか負のスパイラルに陥りやすい。
それは落ち込む気分を、より増長させることになってしまう。

キムは一旦ステージに上がり、戻ってきたらもう機嫌が直っていた。
その日はいつもよりお酒を飲んだ。
酔っ払って、早く寝てしまいたかった。
僕は3時間もボルボに居座り、酔っ払ってホテルへ帰った。
相手をしてくれたキムには感謝していたが、彼女には絶対にホテルには来るなと念を押した。
もし来ても、セキュリティーから連絡があったら知らないというから、行くだけ無駄だと言った。

ホテルの前まで来て、もしかしたらリンがロビーでいるかもしれないと思ったが、それは取り越し苦労だった。
静まり返ったホテルの廊下を歩き、暗い部屋に入った瞬間に疲れが噴き出した。
僕はそのままベッドに倒れ込んで、気が付いた時には朝になっていた。


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