フィリピーナと共に
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2009年05月16日

リン55 不安

あの河原での出来事があってから、ハニーは毎日僕に電話をしてくるようになった。
帰国が近い彼女は少しでも多く会いたいらしく、毎日のように「会いたい」「顔見たい」のセリフを、耳にタコができるくらい聞かされた。

僕もその心中を察し、できるだけ店に顔を出し、仕事で忙しい時には彼女が仕事を終了しアパートに帰り着く夜中(明け方?)の3時半頃に、お土産のポップコーンをコンビニで買って彼女の部屋に出向いた。

ハニーは妊娠の心配をしていた。
店でほとんどお酒を飲まなかった彼女が、いつもビールをがぶ飲みした。
彼女はビールが妊娠を抑制すると信じていた。
もし妊娠したとしても、ビールのがぶ飲みで子供が流れると思っていた。

極度に酔うと彼女は精神的に不安定になり、しくしくと泣き始める。
なぜ泣いているのか理由を聞いても、本人もわからないと答えた。
そうなると僕は帰るに帰れず、店の閉店時間まで付き合うはめとなった。
店の中で女の子が泣いていても、暴力沙汰でない限りは、店のスタッフも他の女の子も見て見ぬふりをする。
僕は慰め励まし、なだめすかしと八方手を尽くし、最後には腕組みをしてうつむいてしまうしかなかった。
周囲から見えれば、「あ〜あ、何かあったな」と一目で分かる雰囲気だったに違いない。

彼女が立ち直る最後の切り札が何であるかを僕は知っていたが、それだけは明確に約束できなかった。
決して逃げようなどと考えていたわけではない。
しかし、その場しのぎで約束できるような問題ではなかった。
ただし、もし子供ができたら責任を取るから心配するなと何度も話をした。
しかしいくらそれを言っても、彼女は信じなかった。

それは僕が、彼女とのことをリンに報告できないでいたからだった。

「リンには二人の関係、もう話しした?」
報告するのがさもかし当然のように聞いてくる。

「してない。できるわけないでしょ?」
「なんで?それじゃあなたはアコ(わたし)から逃げる?」
いきり立った言い方ではなく、不安げな表情を浮かべ蚊が泣くような声で聞いていくる。

「逃げないよ。逃げるんだったらここに来ないでしょ。でもどうしたらいいかわからない。」
「どうして?」
「正直に話をしたら、リンは傷つくでしょ?」
「あなたはまだリンに愛あるなぁ・・」
「だって2年も付き合ってるんだよ。そんなに簡単じゃないよ。」
「それじゃアコは?」
「一回やっただけでしょ?ははは」
「なぁ〜にぃ〜、アコそれきらい」
「う〜ん、それじゃあなたは愛人!・・・それだめ?」
「え〜、それやだ」
「だってこの前は愛人でもいいって言ったじゃない」
「今は違う!それじゃリンが愛人でアコは恋人。」
「それって何か違うの?」
「ぜんぜん違うでしょ!」
「・・・・・そう?」

さっきまでめそめそしていたかと思うと、突然機嫌が直っているかのように見える。
これがフィリピーナの不可解なところであり、良いところでもあった。
会話から深刻さが薄れると、いつものようにお互い少しリラックスして話せるようになる。
この突然変異には救われた。
寝ても覚めても深刻な話しばかりであったら、逃げるつもりが無くても逃げ出したくなってしまう。

「とにかくあなたが帰るまでに、たくさん会って話ししようよ。」
「おお(タガログのyes)、いいよ。逃げるだめよ。」
「はいはい」
彼女から時折強制的な言葉が出ると、僕はゴキブリホイホイの中でもがいているゴキブリになったような気分になった。

(あの時は思い出をくださいって言ってたのに・・・思い出にするつもりはないのかなぁ?)
それを望んでいたわけではないが、これからはそんな言葉を信じてはいけないという教訓にしようと思っていた。
それだけ僕は、シーパラダイスに行く前後で豹変した彼女に戸惑いを感じていた。

僕が休みの日には、彼女は他の全ての誘いを断り、決まっていた同伴さえもキャンセルして僕に付き合った。
いや、僕が付き合わされたと言った方がこの場合は正しい。
彼女には、帰国前の貴重な時間を二人で過ごすのは当然という雰囲気があり、僕には彼女のお願いを断る権利などないと思っていた。

相変わらず彼女は僕の部屋へ連れて行けとしつこく迫った。
彼女はお願い上手なところがあり、どうしてもとお願いする時にでも決して高飛車で強硬な態度は取らない。
甘え調だったり寂しい調だったり、ちょっとすねる感じだったりと、手を変え品を変え変幻自在に雰囲気を変えてくる。
それがあくまでも自然なので、いくらしつこくされても、こちらはなかなか怒るきっかけをつかめない。

最初はだめだと言い張っていた僕も、とうとう根負けし彼女を自分の部屋へ入れた。
「わぁ〜、きれい。アコもここに一緒に住みたい。」
「おことわりです」
「あ〜ん、あなた冷たいなぁ」

僕の部屋に入るなり、中をじろじろ見渡して何やらチェックをしていた。
「ねえ、リンの写真はどこ?」
「そんなものないよ」
「え〜、どうして?」
「日本人は写真飾ったりしないの!」

実際部屋にはリンの写真を置いていなかったし、もちろん財布の中にも持っていない。
フィリピン人は欧米人と同じで、家族や恋人の写真を部屋に飾ったり持ち歩いたりする人が多かった。
僕は以前リンの部屋へ行った時に、彼女の家族の写真が数枚飾っている中に、僕とリンの二人で撮った写真が一つも無かったことを思い出した。

僕はパソコンの中にあるリンの写真を彼女に見せた。
「お〜、マガンダ(美人)じゃん!」
「そう?僕にはよくわからないけど・・・。あ〜そういえば最初はマガンダだと思ったなぁ。」
ずっと付き合っていると相手のことを客観的に見れなくなってくるから、マガンダだと言われてもよくわからなかった。

僕は大のコーヒー好きで、いつもお気に入りの豆を切らさないようにしている。
その豆で二人分のコーヒーを入れ、ダイニングテーブルに彼女と向かい合わせで座った。
「ひとつ聞いてもいい?」
「なに?」
「シーパラダイスに行った日、あなたはすぐ帰るって言ったでしょ?あれはもしかして、あなたの作戦?」
「へへへ」
「やっぱりそうなの?」
彼女は肯定も否定もしなかったが、笑ってごまかすその態度がイエスと言っていた。

「あなた怒る?」
「いや、怒らないよ。ただね、あなたはやっぱりアンビリーバブルな人だなぁと思っただけ。」
「アコ、あなたの部屋に来たかっただけ」
「ここに来てどうするの・・・」
「わからない。ただ部屋を見たかったんだもん。」
「いろいろチェックしたかった?」
「オーオー(yes)」

彼女は僕の部屋に、女の気配がないかどうかをチェックするのが一番の目的のようだった。
勿論女の気配のけの字もない部屋だった。
その様子に彼女は少し満足していた。

僕はその日、彼女を自分のベッドルームにも入れてしまった。
僕が張り巡らしていたバリアーが、一つ一つ着実に砕け散っていくのを感じた。

このまま彼女のペースで物事が運んでいいものだろうかと思いながらも、ますます彼女のペースにはまっていく自分が怖かった。
そして心の中に引っかかるものがあった。
それは自分が何を望んでいるのか、どうしたいのか自分自身でわからないということだった。
それが見えた時に、もし後戻りする必要があったら、果たしてそれができるのだろうか・・・。

僕はハニーのストレートでけな気な愛を心地よいと思っていた。
それは僕がリンに求めていたものに他ならなかった。
しかしいざハニーがものすごい勢いで自分に飛び込んでくると、それはそれで半歩引いてしまう自分がいた。

二人で楽しく会話をしハニーの笑顔を見ている時には、あふれ出るような幸福感があったが、ふと我に返ると、幸福感よりも底の見えない不安の方が大きくなってくるのだった。
性急な状況の変化に、僕は心を整理できず順応できずにいた。

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2009年05月15日

リン54 迷路の入口

車は店の方へと向かっていた。
そのまま走ると10分もすれば、店の近くに到着する。

「どうする?あなた帰る?」
「アコ(わたし)あなたの部屋に行きたい」
「はあ・・・?」

「アコあなたの部屋みたい。そこで話したい。」
「何の話し?まさかボディーラングエッジじゃないよね。」
「えへへ、それでもいいよ」
「ばか!あなた他のお客さんにもそんなこと言ってんの?あぶないよ。レイプされちゃうよ。」
「アコ言わないよ。それ言うのあなただけよ。だって他のお客さんに心ないも。」

車がちょうど橋の手前に差し掛かっていた。
橋の下には幅の広い川が流れていて、河原に降りる道が橋の手前で分岐している。
その分岐道ぎりぎり手前で快調に走っていた車のアクセルを緩め、彼女に予告なしにハンドルを河原の方へ切った。

「どこに行くの?」
「この先にあるホテル」
本当はホテルなど行くつもりはないのに、また彼女のことを試したくなった。

「え〜?あなたの部屋でいい」
「僕の部屋は今きたないもん」
「きたなくてもいいも」
「だめなものはだめ!」
「ふん!冷たいなぁ・・・」

僕は車を河原へ入れて、川のすぐぎりぎりまで進みエンジンを止めた。
河原には大きなごろごろした石が転がっており、車を停止させるまで、からだが上下左右と大きく揺れた。
幅が50m以上あるその川には中州があり、その上を羽を休めている20羽ほどの水鳥が散歩していた。
他にも、緩やかな川の流れに身を任せる同じ水鳥が数羽見えた。
川岸の浅瀬には背の高い水草がたくさん生えていて、その手前がすぐ土手になっている。
他には車も人もいなかった。

「ここなに?レイク?(湖?)」
「川だよ。リバー!綺麗でしょ?若い時ね、時々会社さぼってここで良く本読んでたの。車の窓をあけると涼しい風が入ってきてさ、車の中で寝っ転がって本読んでると眠くなるんだよ。それで昼寝したりしてさ。それがほんとに気持ちいいんだよね。」

「そう・・・ここはあなたの好きな場所ですか・・。なんであなたの部屋に行かないの?」
「だってあなた僕のことレイプするでしょ?」
「へへ、なんでわかる?」
「え?ほんとにそうだったの?」
「じょうだんでしょ?でもあなたがアコをレイプするがいいなぁ、それエキサイティングだなぁ。」
「あなたってほんとによくわからないね」

僕は彼女を部屋へ連れていくのは抵抗があった。
マンションの自治会で近所付き合いのある僕は、若い彼女を部屋へ連れ込む現場を知りあいに見られたくはなかった。
かといってホテルへ行く気もさらさらなかった。
リンとのこともあるので、気持ちの整理がつかない状態で彼女と深い関係にはなりたくなかった。
そして、そもそも彼女がそんなところへ一緒に行こうなどと、本気で思うはずがないと思っていた。

ワンボックスカーの僕の車は、時々寝転がって本を読む自分用に後部座席が広い空間になっている。
彼女は後ろの座席に移動し、頭をバックシートにもたげながら寝転がった。
「あ〜気持ちいいなぁ。アコ寝ちゃうかも。」
「いいよ寝ても。レイプしないから。」
「ねえ、ここにきてよ。はやく。」

自分の隣をポンポンと叩きながら、ここへ来いと言った。
確かに後ろと前に分かれるのは、話もしずらいし不自然だった。
僕も彼女の隣へと移動し、疲れた体を目一杯伸ばした。
シートの冷りとした温感が体に伝わり、確かに気持ち良い。

「アコここで寝る」
彼女は僕の胸の上に顔を寄せて目を閉じた。
僕は少し優しい気持ちになりながら「どうぞ」とだけ言った。
寝るならそのまま寝かせてあげようと思っていた。

「あ〜、アコ気持ちいいなぁ。あなたの心臓の音が聞こえるよ。」
「音しなかったら危ないでしょ?それ死んでるよ。」
「ふふ、それはそうだけど・・。ねえ、アコのこと、どきどきしてるの?」
「ぜんぜん・・・」
「あなたいつも冷たいなぁ。アコのこと嫌いなの?」
「嫌いだったらシーパラダイスにはいかないよ」
「それじゃ好き?アコはあなたのタイプ?」

タイプと聞かれたらタイプだったが、それを正直に言う気にはなれなかった。

「ぜんぜん。僕はもっとおしとやかな人がいいよ。静かで優しくて・・・」
「アコ優しいよ。好きな人にはなんでもがんばるよ。アコのこと全部あげるし、何でもしてあげるよ。」
「そうだね、あなたはきっと優しいね。それは分かるよ・・・」

「アコもうすぐフィリピン帰るよ。あなた淋しい?」
「淋しいなぁ。また新しい店を探さなくちゃならないよ。」
「なんで?アコがフィリピンに帰ったら、あなたまた違う女捜す?」
「そうだよ。リラックスさせてくれる人ね。だってたまに行きたくなるでしょう、お店に・・」
「そう?それで恋人にするの?」
「探すのは恋人じゃないよ。だって僕には恋人がいるでしょ。」
「でも愛人は大丈夫でしょ?」
「大丈夫じゃないよ。もしあなたの恋人に愛人いたらどうする?我慢できる?」
「アコがまんできないなぁ。やきもちいっぱいになるなぁ。」
「でしょ?みんな同じだよ。」

その場所は街の近くにありながら、都会の喧噪からは一切遮断されている。
僕はのんびりしたい時はたまにこの場所へ来て、河原の風を感じながら本を読むのが大好きだった。
そんな僕の秘密のスポットに他人を連れてきたのは初めてだった。
夕方が近づいてきて、カラスの鳴き声が聞こえていた。

二人は成り行きの会話をしばらく続けていた。
僕は窓の外の景色を眺めながら、なかば放心状態のように、心のままに言葉を出していた。
余計な事を考えずにそうすることが、僕が一番リラックスできる状態だった。
彼女もまるでそれまでの人生の疲れを癒すかのように、僕の胸の上で目を閉じたまま、身動きせずに静かに会話を続けていた。

「アコ今すごいリラックスできる。これ日本に来て初めてよ。ハッピーだなぁ。」
フィリピーナ達にとって、日本はとてもストレスが多い国だった。

「そう・・よかったね。僕もリラックスしてるよ。」
「ねえ?あなたは本当にリンのこと愛してる?」

咄嗟に返事ができなくなった。
代わりに別の質問をすることで切り返した。

「あなたは本当に僕のことが好きなの?」
「おーおー、心からよ、それ。」 ※オーオー(oo)はタガログ語でyesの意味。
「なんで僕のことが好きなの・・・?」
「それわからない。でもあなたと最初に会った時アコ思ったよ。あなたはマイディスティニー(運命の人)だって。」
「ディスティニーか・・・僕はあなたのディスティニーじゃないと思うけどね」
「それアコの考えだからしょうがないでしょ」
「あなたは僕の他にもお客さんいっぱいいるじゃない・・・なんで僕なのかなぁって思うんだよねぇ。」
「あなたアコのタイプだから・・・」
「そう?どうして会ったばかりでそんなことを思うのか、僕には理解できないよ」


「もうアコ、時間ないなぁ。ねえ?フィリピンに帰る前にアコに思いでください。だめですか?」
彼女は時々突然ですます調の敬語になる。
それが出ると僕は彼女の要求を拒否しがたい気持ちになってしまうことがあった。

何の話かを聞く前に、彼女は静かに僕の胸から起き上がり、大きな目を開いて僕の顔に自分の顔を近づけてきた。
頭の中ではいまだに迷いがあるのに、僕は金縛りにあったかのように身動きできなくなった。
僕の顔に数センチという距離で目を閉じた彼女は、自分の唇を僕の唇に静かに重ね、僕は黙ってそれを受け入れる形となった。

その時、彼女の気持ちはやはり本気だったのかとわかった。
彼女の唇の動きから、どこまでも自分を追い求めようとする彼女の愛を感じとることができた。
いつの間にか僕は、リンとは違う彼女のストレートな愛が心地よいと感じていた。

長い時間唇を合わせていた。
彼女の我がままを聞くだけのこのキスは、きっと許されるに違いないという勝手な解釈をしていた。
しかし彼女の両肩をつかんでいた僕の手はいつの間にか彼女の背中にまわり、彼女の体を両腕で抱きしめていた。

最初は自分で意識できるほどに理性を保っていたはずだったが、それが本能にかき消されていった。
彼女の背中にまわしていた腕に力が入り、二人の体制が上下入れ替わり、僕が主導権を握った。
その時でさえ僕の右脳と左脳は、かろうじてバランスを保っていた。
彼女との熱いキスを気持ち良いと感じながら、いつどうやってこの状況に終止符を打つべきかを頭の中で計算していた。

一旦離した唇を、彼女が再び追いかけてきた。
計算外だった。
計算外だったのは、拒絶しようと思えばいとも簡単にできたはずなのに、そうはしなかった自分のことだった。
僕はすでに分泌されたアドレナリンが体内を駆け巡る感触に溺れかけていた。
そして彼女また、同じように見えた。

彼女の背中に回っていた僕の手は、いつの間にか彼女の服の下で彼女の体を追い求め、手のひらには彼女のしっとりとした肌の感触が伝わっていた。
いけないと思っているのに、それとは裏腹にエスカレートしていく状況に焦りを感じながらも、僕は攻める手を緩めることができなくなっていた。

その時彼女が突然上半身を起こし、はいていたジーンズと下着を脱ぎすて、無言で再び抱きついて僕の唇に吸いついた。
予想外の彼女の行動に、僕は頭の中で「ちょっと待って・・」と言ったが、それは実際の声にならなかった。

僕の手が彼女の下半身へ向かい、彼女が濡れていることを知った瞬間、そのまま彼女を快楽の頂点まで導いてあげたいという衝動にかられた。
僕は彼女のあらわになった下半身の上にジャンパーをかけ、車の外を気にしながらも指先で彼女を愛撫しキスを続けた。
彼女の口からは、かすれた言葉にならない女の声が漏れ出していた。
もはや後へは引けない状況になっていた。
そして最後には僕も彼女の中で果てた・・・・。


気が付いたら車の全てのガラスが水蒸気で曇っていた。
「なんで外みえない?」
「これは二人の汗だよ」
「すごいなぁ、アコ全然わからなかったよ」


車を出した後、僕は運転しながら、なんでこんなことになってしまったんだろうと思っていた。
同時に、こんなことになるのだったら最初からちゃんとしたホテルの部屋でするべきだったと後悔し、彼女に申し訳ないと思っていた。
車が国道の渋滞にのみ込まれ、家族づれやカップルの車に囲まれた。
そんな周囲の目など気にせずに、彼女は後部座席から運転席の僕を包み込むように手をまわし、自分の顔を僕の顔のすぐ横に寄せながら話していた。

つい今しがたあんなことがあったばかりなのに、彼女はいつもの陽気な雰囲気に戻っていた。
「車の中であんなことになるなんて、すごいロマンティックだなぁ。アコ忘れないよ。」
「そうなの?僕は悪いことしたなぁって思ってるけど・・・」
「なんで?あなた愛ないから?」
「違うよ、車の中であんなことになったこと」
「そうなの?アコは嬉しかったよ。アコはあなたを愛しているから、あなたにアコの全部あげるよ。あなたはアコに愛ある?」

「わからない」
体の関係ができた瞬間に愛が芽生えるわけがなかった。
嘘を言うことはできたが、わからないというのが本音だった。
彼女はそれを、「愛はない」と解釈したようだった。
僕の言葉は、愛があるかわからないが、愛がないかどうかもわからないという意味だということを、彼女は気づいていなかった。

「そうなの?それじゃさっきのはなに?」
「・・・・・・」

彼女は無言の僕に「アクシデント?」と聞いてきた。
僕はうまいことを言うなぁと感心し、そうだと言った。

「そうなの?心痛いなぁ」
「だってあなた突然ジーンズを脱いじゃったでしょ?僕はあの時ほんとに驚いたんだから・・・」

それは正直な話だった。
しかし僕は既にある程度腹をくくっていた。

「でも心配しないで。あなたのことちゃんと考えるから。」
「ほんと?アコ少し心配よ。今ベイビーができるタイミングだから。もし妊娠してあなた逃げたら、お母さんまた怒るよ。あなた勉強ないなぁって。アコそれ心配。」
「もし子供ができたら逃げないよ。それだけは約束する。心配しないで。」

腹はくくっているものの、その後リンやハニーにどう対応すべきかはわからなかった。
どうにでもなれという気持ちもあったが、もし子供ができたら逃げるつもりはないという言葉に嘘はなかった。
彼女がそれに値する女性だということを、彼女とのコミュニケーションを通し僕は既に知っていた。

店の入口で一旦彼女を降ろし、僕は駐車場に車を停めに行くことにした。

彼女が車を降りる時に「Love you mahal ko!」と言って頬に軽くキスをした。
いきなり僕の呼び方が、名前から「mahal ko」に変わっていた。
「mahal ko」とは、フィリピン人が恋人を呼ぶ際の甘い言葉で、「マイダーリン」のような意味である。

僕は駐車場に向かいながら、既に100%恋人気分になっている彼女にブレーキをかけるかどうしようか迷っていたが、彼女の幸せな気分を壊したくはなかった。
かといって恋人宣言はリンとの事があるからできなかった。

自分が奥深い山中で、迷路に入り込んだかもしれないことを実感し始めた。

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2009年05月14日

リン53 シーパラダイス

ハニーのフィリピン帰国があと一か月と迫った頃であった。

僕がお店に行くたびに彼女がお願いしてくることがあった。
「アコ(わたし)をシーパラダイスに連れて行って。一回行きたいの。お願い。」
「そんなの他のお客さんにお願いすればいいでしょ。みんなすぐにOKしてくれるよ。あなたいっぱいお客さんいるじゃない。」
※シーパラダイスは水族館と遊園地が一緒になっているパーク。

「え〜、それダメ。みんなスケベだから。アコいやだぁ。」
「みんなスケベじゃないでしょ?いいお客さんもいるじゃない。」
「え〜、でもいやだ。アコ、あなたと行きたい。お願い、連れて行って。」

彼女の帰国が刻々と迫っていた。
僕は何度も断りを入れたが、彼女は諦めなかった。
店の外で会うのは気が重かったが、彼女が帰国する前に、楽しませてくれたお礼を何かしてもいいという気にはなっていた。
僕は根負けをし、ちょっと彼女を試してみることにした。

「わかった。それじゃ条件がある。シーパラダイスに行く日は、僕の言うことを必ず聞くっていうのが条件。」
「その条件はなんですか?」
「それは今は言えない。あなたが、僕のお願いを何でもOKするって約束したら、教えてあげる。さあどうする?約束する?」
僕は彼女が変なことを考えるように、わざとにやけた顔で言った。

「いいよ。アコ何でもいいも。」
ハニーは全く考えず、拍子ぬけするほどあっさりとOKした。

(こいつ少しなめてるかもな・・・よし!)
「もしかしたら、ホテルに一緒に行くっていうかもしれないよ。それでもOK?」
「いいよ。アコあなたについて行くも。」
「え?・・・・そなの?冗談じゃないよ。あなた僕の話してることわかってる?」
「わかってるよ。それじゃ約束ね。それで?あなたの条件はなに?教えて?」

しまったと思った。
ホテル行きを臭わせれば、彼女は絶対にしり込みすると思っていた。

「・・・・ しょうがないなぁ。それじゃシーパラダイスに行ったら、僕が乗りたい乗り物は必ず一緒に乗ること。ジェットコースターが怖いとかいやだって言っちゃいけない。それが条件だよ。いい?」
「え〜、アコの心臓病気だからジェットコースターはだめだなぁ。」

彼女が珍しく顔を曇らせ寂しそうな表情をした。
「病気ってほんとの病気なの?病院に行くような病気?」
「そうよ。それじゃやっぱり一緒に行けないですか?」

「病気じゃしょうがないなぁ。わかった。僕の負けです。条件は無しでいいよ。シーパラダイスに連れて行くよ。」
「ほんと?アコ嬉しい。フィリピン帰る前にあなたと思いで作る。いつ行く?」
「今度の土曜日か日曜日。どっちがいい?」
「土曜日。早い方がいいもん。時間は?アコ何時でもいいよ。6時?7時?」
「6時って朝の?」
「うん」
「そんなに早く行ってどうするの」
「だって場所わからないだもん」
「それじゃ10時にしよう。大丈夫?」
「オッケー、大丈夫よ」
「あっ、それからミニスカートは禁止ね。」
「なんで?」
「だってあなたがドライバーズシートの隣でミニスカートはいてたら、ドキドキしちゃうでしょ」
「そっか、それあぶないな」

フィリピーナタイムを計算に入れて10時の約束にした。
10時だったら11時までには出発できると踏んだ。
そうしたらシーパラダイスで3〜4時間遊んでも、夕方には戻ってこれる。
同伴の扱いで行くことにしたから、7時頃までには店に入らなければならない。

こうしてシーパラダイスのデートが決定した。

当日は彼女のアパートに車で迎えに行った。
彼女は既に出かける準備を整えていて、すぐに部屋から出てきた。
彼女は禁止したミニスカートではなく、上下をジーンズで統一し、ベレー帽のようなハットをかぶっていた。

そのアパートは店から少し離れた場所にあり、家賃が安そうなボロアパートの各一室に、タレントが2人ずつ押し込められていた。
そのアパートの全ての部屋をお店が押さえており、フィリピーナが全員で20人程も住んでいるとのことだった。

部屋の中には上がらなかったが、タレントの住まいを始めて見せてもらった。
6畳一間の部屋には2段ベッドがあり、それが部屋の半分を占めていた。
残りのスペースには小さなちゃぶ台があり、その上にコーヒーカップや湯呑のようなものが2〜3置かれているのがちらっと見えた。
手前には小さなキッチンと一口コンロがあり、カーテンのかかった部屋は薄暗く、とても粗末に見えた。
店の中で華やかに見える彼女たちには、不釣り合いな住まいに思えた。

「きたないでしょ?」
「そうだね。もっといいところに住んでるかと思ってた。」
「きれいなところはもっと高いでしょ?」
「これはお店が払ってるんじゃないの?」
「そうよ。だから安いアパートでしょ?」
「そうか。お店はケチなんだ。でも儲かってるでしょ、お店・・」
「それでもわたしたちには、お金使わないでしょ?」

彼女は朝7時から出かける準備をしていたらしい。
化粧もお店にいる時よりしっかりとしているように見えた。
彼女が近づくたびに、甘い香水の匂いが漂ってきた。

車を発進させると同時に彼女は、「アコどきどきして、きのう眠れなかったよ」と言った。
それが本当か嘘かはわからないが、そんな事を言うのが彼女のかわいいところだった。

シーパラダイスへ行く途中道に迷ったが、12時前には到着した。
すぐに水族館を見て回った。
イルカやアザラシのショーを含めて、1時間半ほどの時間を費やしたと思う。
ハニーは見るもの全てが珍しく、水槽に張り付いてははしゃいでいた。

シーパラダイスの海底トンネル
seapara3.JPG
水槽に張り付いているハニー
seapara4.JPG

一通り周り、食事をしてから遊園地へ向かおうと思っていたら、彼女が疲れたとだだをこね出した。
まだ来たばかりだというのに、もう帰ろうと言うのである。
(あ〜、これだからフィリピーナは・・・
        一日予定をあけてわざわざ来たのにもう帰るの?)
フィリピーナがというわけではないが、外人は物事をはっきりという。
いやなものはいやで、無理をしないし周囲も個人の気持ちを尊重する。
はっきりと言うことはいいが、時としてそんなところが日本人と波長が合わない場合があった。

そして特にフィリピーナは疲れやすい。
疲れたと言い出すと、どんなケースでも無理は利かない。
日本人的感覚の、せっかく来たとか、ここまで頑張ったのにといった話が通用しない。

僕は水族館よりも遊園地の方へ行きたかったが、気分屋のフィリピーナのことだとあきらめ、後ろ髪を引かれる想いで帰路についた。

あれだけ連れてこいと頼み込んでおきながら、お前はいったい何なんだといった意味のことを、僕はぶつぶつと彼女に言いながら車を運転していた。
勿論本気モードで怒っているわけではないが、お前は何から何までアンビリーバブルだということを話していた。
彼女は笑ってごまかすだけで、疲れたわりには車の中で眠ることもなく上機嫌だった。
そして彼女の何がアンビリーナブルなのかという話で二人は盛り上がっていた。

帰りは順調で、3時には店の近くまでたどり着いていた。
「ねえ、これからどうする?食事してもいいし、お茶だけでもいいし、アパートに帰って休みたかったらそれでもいいよ。」

しかし早めに帰ったのは、ハニーの作戦だったのである。
彼女は意外なことを言い出した。

ハニーです
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これ、ちょっとやばいかな?誰が書いてるかばれちゃう?ちょっとどきどき。
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