フィリピーナと共に
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アイリーン:カテゴリの記事一覧です。

2009年08月16日

アイリーン3

第2章
アイリーンはフィリピンセブ島の西側にある、バリリという小さな町の貧乏な家庭に生まれた。セブシティーとバリリはバスで約50分の距離にある。
その町のとりえと言えば、海や山や川などの自然が身近にふんだんにあり、静かで安全だということだった。
そして町の産業は、サンダルやスニーカーといった履物作りが細々と行われているくらいだった。
そこではアイリーンの家が特別貧乏だったわけではなく、近所の家庭はどれも似たりよったりで、父親がまともな職を持っている方が少なかったかもしれない。アイリーンの家は子供が学校に通えたので、まだましな方だった。

アイリーンは、レイ26歳とメアリー22歳の長女として生まれた。
その後アイリーンの下には次女のアニー、長男のマック、次男のジミー、三女のカミル、そして四女のサリーが次々と生まれることになる。


アイリーンの父レイと、母メアリーはセブシティーで育った。
メアリーは評判の美人娘で、言い寄ってくる男たちが家の前に並ぶほどであった。メアリーは目鼻立ちがはっきりとした顔を持ち、唇の右横下にある小さなほくろが、彼女の神秘的な魅力を一層引き出していた。
そんな彼女を口説こうと、男たちは連日彼女の家の前に駆けつけるのである。
フィリピンで、そのような光景は珍しくなかった。働くことには消極的なフィリピン男性も、こと恋愛に関しては、このように手間を惜しまずに積極的だった。気持ちの優しい彼女は、そんな男たちにどう対処してよいかわからなかったが、彼らを追い払う役目はもっぱら母親が引き受けていた。
「うちの子は今忙しいんだよ。いくら待ってても無駄。あの子は絶対に出てきやしないから。ほら、もう諦めて帰った方がいいよ」
母親はまるで害虫を追い払うように、娘に言い寄ってくる男たちをけちらした。その態度には、ドル箱になる娘に変な虫が付いたら困るという思惑が、ありありとうかがえた。

ある日、たまたま帰宅時間が遅くなったメアリーに、事件が起こった。メアリーは、女友達との食事とおしゃべりで、帰宅が夜11時を過ぎてしまった。
深夜近くになると、乗り合いバスのジプニーの中でさえ、ナイフを突きつける強盗に出くわす危険がある。深夜のフィリピンは、至るところで危険が増す。幸いそこでは何事もなかったが、ジプニーから降りた彼女は、自宅までわずか徒歩10分という街灯と人気のない路上で、酔っ払いの男4人組に襲われた。
メアリーが住むセブシティーのクエンコというエリアは、もともと治安の良い場所ではない。もし日本人が、誤って深夜にそのエリアに入るものなら、間違いなく身ぐるみを剥がされる場所である。
暗い道を歩いているメアリーは、突然後ろから抱きつかれ、口をふさがれた。次の瞬間、酒臭い匂いと共に、暗闇から数本の手が伸びてきて、メアリーの体が宙に浮いた。彼らはメアリーを担ぎ、どこかへ連れ込もうとしていた。
そんな事件が起こっている場所を、偶然通りかかったのがレイだった。彼が何をしているかと叫びながら駆け寄っただけで、幸いにも4人組の暴漢は逃げ出した。メアリーはレイのおかげで、レイプの難から逃れたのである。
それをきっかけに二人は付き合い出し、恋人になったというのが、アイリーンが幾度となくメアリーから聞かされた、二人の馴れ初め話だった。

男たちがいくら言い寄っても、誰にも振り向こうとしなかったメアリーが、偶然とはいえ自分と付き合うことになり、レイは有頂天になっていた。自慢の恋人を手にしたレイは、メアリーをいつでも大切に扱っていた。

面白くなかったのはメアリーの母親である。彼女は当時大工をしていた貧乏青年を、メアリーの恋人として絶対に認めたくはなかった。メアリーにはもっとふさわしい男がいると、かたくなに信じていた母親は、レイに対していつも露骨にその感情をぶつけていた。
「うちの娘はあんたのような人間と付き合う子じゃないんだよ。いい縁談だってあるんだから、さっさと諦めておくれ」というその顔には、底意地の悪さがにじみ出ていた。
「ママ、何てことを言うの。彼はいい人よ。それに私の恩人なの。私の愛する人をそんなふうに言わないで」メアリーはいつでも、レイの見方だった。そしてその話になると、メアリーはいつもその小さな心を痛めていた。

それまで親に反抗などしたことがなかったメアリーが、レイとのことでは一歩も後ろへ引こうとしなかった。しかしいずれは親のいうことに従うだろうと、母親も譲る気配を微塵も見せないようにしていた。しかしその陰でレイとメアリーは、計画的に子供を作り結婚に持ち込もうと決めていたのである。
二人が付き合出だして約1年後、メアリーは21歳の若さでレイの子供を身ごもり、二人はそれを理由に強引に結婚をしてしまった。

メアリーの美貌を持ってさえすれば、条件の良い縁談はいくらでも可能だと思っていた彼女の両親は、完全に望みを絶たれる格好となった。娘がどこかの金持ちと結婚してくれるのを、母親は切に願っていたのだった。そうなれば、自分たちの将来は安泰だと高をくくっていた。
子供ができて結婚すれば、メアリーの両親は折れるだろうとふんでいたレイとメアリーの思惑もまた、見事に外れた。
彼女の両親は、とんだ邪魔者が現れたものだと最後までレイを受け入れようとせず、メアリーは自分から、そんな両親と距離を置くようになっていったのだ。

レイはメアリーの両親を見返したい気持ちで、仕事に精を出していた。時には現場を掛け持ちし、とにかく仕事に空きがないように心がけていた。
そしてメアリーは6月12日、セントルイス病院で無事待望の女の子を出産したのだった。
折りしもその日は、約100年前にフィリピンがスペインの統治から抜け出した独立記念日であった。そして子供はアイリーンと名づけられた。

しかし皮肉にもアイリーンが生まれた頃、不況のあおりを受け、レイの仕事は激減していた。そして翌年本格的に襲ってきた大不況が、レイからいとも簡単に全ての仕事を奪ってしまった。経済基盤の弱いフィリピンでは、不況という言葉が独り歩きしただけで、職を失う人の数はうなぎのぼりに増えるのである。
それでも最初は妻子のためにと、レイは自転車のトライシケル(サイドカー付き自転車)をレンタルしがんばっていた。しかし重労働の割りに一回の運賃が5ペソ(10円)足らずで、更にそこからレンタル代を支払うと、レイの手元に残るのはいくらにもならない。彼はその割の悪さに嫌気がさして、それを三ヶ月で辞めてしまった。

そしてついにレイとメアリーは、セブシティーの賃貸アパートを引き払い、田舎のバリリにあるレイの両親が残した家に、居を移すことにしたのである。家賃を節約したかったこともあったが、メアリーや子供にとっての安全を含む生活環境を考慮しての選択であった。
一家の収入を確保するために、メアリーは親戚から当座の生活費を借り、そして引越し先のバリリで仕事を探し、働くようになった。
この一家の不幸は、こうして静かに始まったのである。

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カテゴリー:アイリーン
エントリー:アイリーン3
2009年08月15日

アイリーン2

その客はいつも帰り間際に、20SD(SD:シンガポールドル・・20SDで約1300円)のチップを置いていってくれた。アイリーンの店は90分で80SD(約5200円)だから、20SDのチップはまあまあ良かった。むしろそこに来る客はノーチップが多いので、チップをくれる人は金額の大小に関わらずありがたいといえた。
アイリーンが接客中、わずかに自分の感情を表に出すのが、このチップを受け取るときである。大げさにありがとうとは言わないし、飛び跳ねて喜ぶわけでもないが、形の整った唇の両端がわずかに上がり、細めに手入れされた眉毛が2度上下する。その時の彼女の表情が少し優しく見えるのは、その客だけではなかった。


アイリーンが働くその店は、シンガポールのゲイラン18通りにある売春宿だった。
シンガポールは国が売春を認めているので、その手の店は堂々と商売ができる。
そのエリアには、同様の売春宿が20〜30軒ほど軒を連ねていた。国にきちんと届出をした売春宿には一つ一つナンバーが与えられており、店の前の小さなたて看板に、その数字が示されている。そこに並ぶ売春宿は、日本でいう商店のような店構えでそれほど大きくはない。どれも似たような建物なので、その辺りに不慣れな人にはそのナンバーが有難かった。ナンバーを覚えていないと、気に入った女の子のいる店がどこにあったのか分からなくなり、一軒一軒店に入って確認をする羽目になるからである。
それぞれの店の前では、男が客引きをしている。表示されている価格より安い価格を客に持ちかけ、巧みに店の中に連れ込んでしまう。とにかく女の子を見るだけ見て欲しいといい、ガラス張りの部屋の前に客を案内すると、その中にいる女性たちは一斉に客に向かい愛想笑いをしながら自分をアピールする。慣れた人であれば数軒の店にまたがり、自分が気に入る女の子が見つかるまでそれを繰り返すのだが、不慣れな人であれば、大体はそこに連れ込まれた時点で勝負が決まっている。そこでそこそこ気に入る女性を指名して、お金を払ってから受付の奥にある女性の部屋へ、指名した子と一緒に突き進むことになるのだ。

それらの店で働く女性は、月に一度性病の検査が義務付けられており、健康であることのドクターのお墨付きをもらっているから、怖い性病がうつされる危険はないというのが建前だった。
ゲイラン地区では、そのような国の管理下にある宿で働けない女性たちが、それ目当てで訪れた道行く男に、路上で色目を使い声をかけている。彼女らの料金は売春宿の半分以下なのだが、ほとんどの男は性病を心配し、その手の女性には手を出さない。目的を持ったほとんどの男は、売春宿に入ってしまう。

そのエリアで働く女の子は、売春宿だけでも常時300人から400人はいるが、その99%がタイ人で、アイリーンのようなフィリピン人をその地区で見つけることは難しい。しかしその希少価値が功を奏してか、アイリーンは他の子に比べて客が多かった。
噂を聞きつけタイ女性に飽きた客が、わざわざアイリーンを目当てに訪れることもあったが、愛くるしい小さな顔と、細身ながらボリューム感のある体を持つ20歳の若いアイリーンが忘れられないリピーターも多かった。事が済んだ後のアイリーンの甘えるような仕草が、客の心をくすぐるのも、彼女にリピーターの多い理由だった。
特にくりっとした目と縮れた栗色のショートヘアーはタイ人と一線を画しており、本人が知らないところで、彼女は知る人ぞ知るというそのエリアの有名人になっていた。
彼女は本来の自分と決別するために、大好きだった黒くてまっすぐ伸びた髪をばっさりと切り落としたのだ。そしてヘアーカラーとパーマを施し今の髪型にしてみた。
実際にそうしてみると、もともと小さな顔がいっそうこじんまりと見え、またくりっとしたアーモンド形の目が顔の中でますます存在感を増した。
生まれ変わったようで、アイリーンはその髪型が気に入った。自分がシンガポールで過ごす時間は、本来の自分ではなく別人のウライだということを、自分自身に言い聞かせる意味でも、そのイメージチェンジは彼女の心を少しばかり救った。

ゲイラン地区で働く多くの女性たちはタイから流れてくる。いずれも貧しい家の家計を助けるために、仕方なく体を売る仕事を選択した女ばかりであった。
しかし泣く泣くでも、自分自身で選択しその道に入った人は、まだ幸せと言えたかもしれない。

タイでは政府の取締りの網を掻い潜り、人身売買が横行していた。タイ国内で営業する売春宿で働かせるために、人買いが貧しい農村を駆け巡っている。彼らが買い付けるのは成人女性ではなく、むしろ4歳、5歳という幼い女の子や男の子だった。何日もかけて車で国内の農村を駆け回り、手ごろな子供を買ってはまた次の村へと移動する。その間お金と交換した子供たちは逃げないように監視され、時には検問をすり抜けるためにトランクに押し込められることもある。食事と飲み水は最低限しか与えられずに、国中を引きずり回され、そして最後にようやくバンコクに辿り着く。不意に訪れたその旅は、売られた子供たちにとって過酷で辛いものだったが、子供たちに本当の地獄が訪れるのはそれからである。

売られた子供たちは、幼い子供に興奮するという特殊な客の要望に応え、接客をさせられることになる。その為に、何も知らない子供たちに対して、まずは性行為のトレーニングが実施されるのだ。最初は泣きながら抵抗する子供たちも、食事なしと体罰で、激痛と空腹に耐えかねて言うことを聞くようになる。
政府の摘発を避けるために、子供たちは普段暗い地下室に閉じ込められ、リクエストがあったときだけ客の部屋に通される。もし客に対し粗相があった場合には、既に嫌というほど味わっている体罰が彼らを待ち受けていた。店側は彼らを大切な商品と位置づけているので、罰は死なない程度に与える。そうやってそれを繰り返すことで、従順な性の奴隷が作り上げられていた。

そんな子供たちが客の部屋に通されると、大抵の客は最初に、普段口にすることができないご馳走を子供たちに振舞う。いつもお腹を空かし、まずいものしか口にできない子供たちは、それで客のいうことを何でも聞くようになる。それは店側の耳打ちで、客がそうした方が効果的だということを知るのだ。
客の中には夫婦で訪れるものもいて、売春宿に到着すると夫婦別れて別々の部屋に入る。そしてそれぞれが別々にお気に入りの子供を数名指名して、お腹を満たさせてあげた後に自分に奉仕させる。男性客が女の子ばかりを指名するとは限らず、客の快楽を導くテクニックさえあれば性別を問わない。大半の客は性別を入り混ぜた3人ほどの子供を部屋に呼び、快感を味わうための自分のお気に入りの行為を子供に強要するのだ。
客は欧米人の他、日本人も少なくない。日本人の場合、医者や会社役員など、ある程度社会的地位のある人も多いという。
目や耳を覆いたくなるような、おぞましい実態がそこにはある。アイリーンはその話を聞いた時に、生理的に嫌悪感を覚えた。

そのようにして幼い頃からセックスの道具として育てられた子が、場合によってはシンガポールの売春宿に売られるケースがあった。
大人になる過程をそんな風にして過ごした人間は、どこか普通と違っていた。まるで魂の入っていない人間のようだった。客のどのような要望にも無感情、無表情で応えるというから、アイリーンはそれと自分を比較すると複雑な心境になってしまった。
もしかしたら時分もそんな人間になっている、いままさにその途上にいるのではないかと思うと怖くなった。彼女らが可愛そうだという気持ちがある反面、かえって余計な感情がないだけ幸せなのかもしれないと思ってしまうこともあった。
世間一般の幸せそうな人と比べ、自分ほど不幸な人間はいないと卑下する気持ちを持っていたが、子供の頃から転売され流れ着いたタイ人を見ていると、下には下もあると思いながら、その複雑な心境を自分の中でどう処理して良いのかわからなくなった。

しかしいくらそんなことを繰り返し考えても、汚れた仕事をしなければならない現実は変わらない。彼女は余計な事を考えるのは無駄に精神を消耗するだけだということに気付き始め、次第に考えることを放棄するようになっていた。
それでも一人部屋の中で歌を聴いていると、自由に翼を広げることができない自分に、無性に悲しさが沸き起こってくることがあるのだった。

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カテゴリー:アイリーン
エントリー:アイリーン2
2009年08月14日

アイリーン1

少しお休みを頂くと宣言しましたが、せっかく読んで下さる方がたくさんいらっしゃったので、つなぎで別の話を連載致します。
この話、実は別のところで発表しようと思っていたのですが、このブログの読者が急激に減りだすのを見て、我慢できなくなってしまいました(^_^;
この話は、偶然知ることになったアイリーンというフィリピーナの物語です。なぜ知ることになったのかは、読んでいくうちにお分かりになっていただけます。最初の方は、過激な性描写がありますので、ご了承ください。しかしこの物語は、ただの卑猥なお話ではありませんので、どうか誤解ならさぬよう、お願い致します。
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第1章
アイリーンは自分の心を空っぽにして、アブリルラヴィーンの歌声を聴いていた。いくら自分の未来を想像しようと試しても、いつもそれが透けていて、見えるのは現実のみすぼらしい狭い部屋の中だけ。今のアイリーンには、その狭い部屋が全てだった。そこで目覚め、そこで食事をし、そこで仕事をし、そしてそこで眠りにつく。毎日が同じサイクルで繰り返される薄汚れた自分の境遇を、彼女は心底呪っていた。
「私はなんのために生まれてきたの?なぜここにいるの?どうしてこんなことをしなければならないの?何か悪いことをしたなら罪として受け入れる。でも何をした?ただあの国で生まれ、お金がなかっただけ。それだけの理由なのに・・。神様は不公平よ。こんな試練を与えるのなら、最初から私に命を授けなければよかったのに」
考えまいとしても、結局行き着くのはそれであった。3畳ほどの窓の無い薄暗い小部屋の中で、ベッドに腰を下ろしたアイリーンは、これで生きている意味があるのかと思いながら涙していた。泣き叫んでいるわけではない。じっとしていると、彼女自身も不意をつかれたかのように、いつの間にか一滴の涙が瞳から溢れ出し、頬をつたって落ちているのだった。まるで石造の目から涙が流れ出しているようなその光景は、もし他人が見ていたらかける声を失ってしまうほど、彼女の悲しみの深さが伝わってきそうであった。

小さな部屋のほとんどが、シングルサイズのベッドで占められていた。あとは人二人が立つスペースと、それと同様のスペースのシャワールームがあるだけである。
壁には普段着やよそ行きの洋服が数枚かけられ、壁に打ち付けられた手のひらほどの小さな棚の上には、化粧品や小物類がこぼれ落ちそうなくらい乗っかっている。
それに以外の小物類は4段のコーナーラックの中に収められており、その一番上にはオレンジ色の蓋のついた小箱が一つ置かれていた。
その部屋に初めて入った人は、最初にそこが客をとるためだけの部屋かと思うのだが、その妙な生活感から、もしかして普段も女の子がそこで生活しているのでは、と気付く。そして、こんな狭い部屋で暮らしているのか、と驚くのである。
ドアがどんどんとぶっきらぼうに2度ノックされ、「お客さんだよ。早く用意しな」という声に、アイリーンは無言で立ち上がった。そして涙でぬれた顔を手の甲で拭きながら、ベッドと反対側の壁にかかった小さな丸鏡で、前かがみになり自分の顔を確認した。

部屋の外へ出ると、受付けのところに40歳前後の男が、如何にも神経質そうな細い目に銀縁のめがねをかけ、無表情で突っ立っていた。馴染みの日本人である。
彼はいつも綿パンに半そでのカジュアルシャツを着込み、靴は茶色の皮製という、その界隈ではあまり見かけないきちんとした身なりをしていた。
彼の性格は見かけ通り几帳面で、前回アイリーンを訪れたときに約束した次の来店日時を、きちんと守って来てくれたのだ。アイリーンは他の客に指名されないように、彼を自分の部屋の中で待っていた。

受付の横にはガラス張りの部屋があり、その部屋の中にある2段のひな壇の上には、客を待つ若い女の子が20人ほど並んで座っている。ひな壇の上には真っ白なボア上の布が敷かれ、部屋の白い壁とその布に白色蛍光灯の明かりが反射しているためか、その部屋だけは周囲と段違いの明るさと開放感を放っていた。
女の子同士で話をしている者はなく、みんな退屈そうにうつむき加減で自分の爪を磨いたり、ボーっとしている。せっかくやってきた男がアイリーンの客であることに気付いた瞬間、そこにいる女性たちはとたんにやる気をなくし、各々すぐに好き勝手なことを始めたのだ。
これがもし誰も指名のない一見の客であれば、それぞれが自分を指名してもらうためにポーズをとったり笑みを投げかけ、客が一人の女性を決めるまでとにかく媚を売る。

馴染みの客が来てくれたのだから、本来は愛想よく挨拶をするべきなのだが、アイリーンは彼の前に行くと無言で眉毛を上下させ、その後踵を返し、付いて来いといわんばかりに自分の部屋へ向かって歩き出した。客も勝手知ったるで、彼女の軽く左右に揺れるお尻と、その下にすらりと伸びた足が交互に前に出されるのを見ながら、だまってアイリーンの背中を追いかけた。
受付けの男がアイリーンの後ろから「ウライ!90分」と英語で声をかけたが、彼女は聞いているのかいないのか、その声には無反応で狭くて薄暗い廊下を奥へと進んでいく。
ウライとは、アイリーンがその場所で使っている名前だった。フィリピン人に慣れていない中国人店主は、アイリーンが入店したときに、彼女にもタイ人と同様の源氏名を名づけた。アイリーンの胸元には「ウライ」というネームプレートが付けられていた。

アイリーンが自分の部屋の扉を開け、先に彼を部屋の中へと招き入れた。
客はとりあえずベッドの端に腰をおろし、アイリーンはドアノブの上にあるスライド式ロックをかけた後、部屋のわずかなスペースで、男の前で衣服を脱ぎ始めた。
全てを脱ぎ捨て生まれた時と同じ姿になったアイリーンは、今度はベッドに腰掛けている彼の前にひざまずき、めがねを取り彼の着ているシャツのボタンを外し始める。
全てのボタンを外したら、シャツ、次に靴と靴下を脱がせ、そしてズボンのベルトに手をかけた。
全てが無言の中で行われた。この客とは一切会話の必要がないことを、アイリーンはよく知っていた。話しかけても相手が困るだけだった。
部屋の中にはアイリーン個人の持ち物であるMDコンポから、アブリルラヴィーンの歌声が響き渡っている。みすぼらしい暗い部屋と快活な音楽のミスマッチが、その場所に独特の雰囲気をもたらしていた。
彼女は、自分と雰囲気が似ているらしいアブリルの「I’mwith you」が大好きだった。アイリーンは自分がアブリルに似ているとは思っていなかったが、単に以前のヘアスタイルが、黒のストレートロングヘアーだったからそう言われたと思っていた。しかし仲間に言わせると、謎めいた影があり、下手に触るとこちらが焼けどしそうな雰囲気が同じということだった。

彼がベッドに腰掛けたまま、アイリーンは最後の一枚であるブリーフに左手をかけ、右手を上下に振りながら立ってちょうだいと合図を出す。彼が立ち上がるとアイリーンは迷うことなくそのブリーフをずり下げ、彼女の目の前に、既にアイリーンの裸で興奮気味のペニスが現れた。しかし彼女はそれを無視するかのように立ち上がり、彼の手を引いてシャワールームに入った。
彼女はシャワールームにある小さな棚の上に置いてあったボトルから、グラスに液体を適当に注ぎ、彼にそれで口をゆすげと勧めた。彼がそれを口に含む前に、自分もグラスに注いだ液体を口に含み、グジュグジュと音を立ててゆすいでからそれを下に吐き出した。初めての客はそれを見て同じことを真似するが、その客は既に何度もそこへ来ていたので、アイリーンとほぼ同時に口をゆすぎ、彼女と一緒にその液体をシャワールームの床に吐き出した。

彼女はシャワーのお湯の温度を手の甲で確認し、適温になったところで客の足元からお湯をかけてあげる。足元から足の付け根にかけて体を濡らすと、次は手から腕へと、常にお湯を心臓の離れた場所から近い場所へと移動させた。そして体全体をお湯で濡らした後に、ボディーシャンプーを手に取り、客の体の隅々までを丁寧に、手のひらで撫でながら洗っていく。
特にペニスを含む股間のあたりは、あとでばい菌でも移されないように丹念に洗うのだが、大抵の客はそれをサービスの一つと勘違いする。その仕事を始めた当初は、男のその部分を洗うことに遠慮もあったが、その頃のアイリーンには、羞恥心も遠慮も既に消失し、彼女はあくまでも仕事の一つの作業として事務的にそれをこなしていた。
一通り洗い終わるとバスタオルで体を拭いてあげ、シャワールームの扉をあけて彼を外へ出るように促した。彼を外へ出してから次に自分の体を洗う。最初は頃はシャワールームに一人になったその時に、その後に展開する行為のことをあれこれと考え、体全体を襲うほどの悲しさや虚脱感、抵抗感、そして罪悪感を味わったものだが、最近では何の感覚もない。
その間客はベッドにこしかけ、部屋の中を眺めながら3分か5分ほど待っていた。

自分を洗い終わったアイリーンは、体にバスタオルを巻きつけ、コーナーラックの上にあるオレンジ色の小箱からコンドームを取り出し、彼の待つベッドの前にやってきた。
彼の体をベッドの上に優しく押し倒し、そして眼下に客の顔を見ながら自分の体に巻いたバスタオルを外した。
彼はベッドの上で仰向けに寝転んだまま、再びあらわになった彼女の豊満な胸とくびれたウエスト、そして股間の茂みを舐めるように眺めている。
彼女は彼に軽くキスをした後、自分の唇を彼の首筋から乳首へと移していく。彼の乳首を舐めたり吸ったりしながら、右手は彼の股間へ移動させ、既に硬直しているペニスをさすりながら刺激を与えた。
彼の両手が重力で垂れ下がっている彼女の豊満な胸に覆い、軽く力を入れながらもみ始めている。
アイリーンはそれを振りほどくように、自分の顔を彼のお腹から下腹部へと移動させ、先ほど用意したコンドームを彼のペニスに両手でかぶせた後、口に含んだ。
アイリーンはそれをする度にある記憶が脳裏をかすめ、自分自身の意識はまるで遠い彼方に飛んでいる。まるでからくり人形が、ギアで定められた動作を順番に機械的にこなしているような感覚だったが、それとは裏腹に彼のペニスが自分の口の中で脈打ち、ますます硬くなっていくのを感じた。
頃合を見て彼女が客の上にまたがり、その固くなった物を自分の中へと導く。彼はベッドの上に仰向けになったままで、アイリーンは自分で腰を上下させた。
客がこのまま果ててくれれば一番手っ取り早いが、その客はその後に必ず自分と彼女の体を上下入れ替える。
一度ペニスを外し、彼は彼女の恥部を指先で丹念になぞり始めた。
アイリーンは何も感じないが、少しは感じているような声を出し顔を左右に振る。この仕草とて彼女にとってはマニュアル通りの手順に等しいのだが、それを客に悟らせないようにした方が、仕事が手っ取り早く終わる傾向にあることを彼女は体得していた。客によってはその後舌を使って愛撫しようとするのだが、それをやられそうになるとアイリーンは身を起こし、客の肩を両手でつかみ拒否の態度をとる。
彼はそれを知っているので、その後アイリーンを下にしながら、自分のペニスを再度彼女の中へと挿入した。
彼はアイリーンの両足を抱え上げ、腰を前後に激しくゆすりながら数分で果てた。
その最中やはり彼女は感じている振りをし、小さなあえぎ声を出しながら顔を左右に振るのだが、実際にはほとんど感じていない。気持ちがいいという感覚がまるでなかったし、それで女性も果てるという話を聞いても、彼女はさっぱり理解できなかった。
客が果てた後でも、時間が十分余っているときには添い寝をしてあげる。射精をしたら終わりではなく、あくまでも時間制で、客が払った時間分はそこで相手をしなければならない。
しかしアイリーンは、その時間が嫌いではなかった。アイリーンは人の温もりが恋しくて、客の胸の上に自分の顔を置きながら心から甘えていた。優しく頭に手を添えてもらったり髪を撫でてもらうと、不思議と平穏な気持ちになるのだった。
アイリーンの常連客にとっても、それが嬉しかった。自分が彼女の癒しの対象になっていることを敏感に感じとると、また来て上げようという気持ちになると同時に、彼女が自分を必要としているかもしれないという、変な錯覚をも覚えてしまうのだ。
二人並んでベッドに仰向けに寝転がると、丁度ベッドと同サイズの鏡が天井に貼られており、それに素っ裸の二人が映って見える。元気な客はそこからもう一度セックスを要求してくることもあるが、その客は一度果てるといつもベッドの上で静かにしていた。
彼は英語が全くだめだったので、いつも最初から最後まで会話らしい会話はなかったが、アイリーンにはそれが返って楽だった。
自分が奉仕したあとは、まるでその見返りをもらうかのように客に寄り添うアイリーンであったが、彼女はその時、客にただじっとしていて欲しかったのだ。
アイリーンは相手の心が欲しかったのではなく、自分が寄り添うための生身の体が必要だったに過ぎなかった。

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カテゴリー:アイリーン
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