フィリピーナと共に
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アイリーン:カテゴリの記事一覧です。

2009年09月18日

アイリーン21

アイリーンは、そんな彰祐の思い出話を、ニヤニヤしながら聞いていた。そして「あなたが先にフォールインラブだったのね」と、彰祐をひやかすように言った。
彰祐は人差し指を立て、おどけるようにそれを左右に振りながら「ここまでの話だけだったらそう聞こえるよね。でもそれは半分当たりで半分はずれだよ」と、その続きを話し出した。


その後、彰祐とメリアンは休日に二人だけで会い、デートを重ねるようになっていた。
平日も、仕事が終わってから夕食を共にするようになっていったが、お互い二人のプライベートな関係は、会社には知られないように気を付けていた。
それは、日本を出る際に、現地の女の子との色恋沙汰には気を付けるようにと念を押されていたこともあったが、それが発覚した場合、彰祐よりもメリアンに被害が及ぶ可能性が大きかったからだった。首になることは免れても、研修生の生活担当からは外されるだろう。
もしそうであっても、二人の関係には影響はなかったが、メリアンは一生懸命に日本語を勉強し、今の仕事に打ち込んでいる。途中でその役を外されるということは、メリアンにとって心の痛い事件になるに違いない。
彰祐の同僚には、二人のことを隠し通せるものではなかったが、彼らは羨ましいとひやかしながらも、それが彰祐の遊びなのだろうと、さほど気にしていなかった。

しかし彰祐はメリアンに本気で恋していた。
自分がフィリピンに滞在できる期間は、ほんの2ヶ月間である。のんびりしていたら、あっという間に帰国となってしまうとあり、彰祐はやや焦っていた。自分の気持ちを彼女に伝え、彼女の気持ちも確かめたいと思っていた。

メリアンは素直で、しかも嬉しい、悲しい、淋しいといった感情を、正直にストレートに話し、表現する子だった。頭が良く努力家で、どこに一緒に行っても恥ずかしくないマナーも持ち合わせていた。いつも笑顔を絶やすことがなく、一緒にいるだけで、彰祐の心まで明るく元気にしてくれた。そんな彼女が暗い顔をしていると、彰祐は無性にメリアンが心配になり、それが自分の心を締め付けることもあった。

二人で歩いているときは、彼女は彰祐の腕をいつも無邪気に掴んでいたが、彰祐はそのような彼女の様子から、二人の心の距離がかなり近づいたことを実感していた。
あと数週間で彼女と離れ離れになることを考えるだけで、彰祐の気持ちは冬空のように、どんよりと重苦しくなるほど、彼女は彰祐の中で大きな存在になっていた。

日本への帰国が3週間後に迫ったある日、彰祐はメリアンに自分の気持ちを伝えようと決心した。
マンゴアベニューのライトハウスというネイティブ料理のレストランで食事をした後、彰祐は彼女をオスメニアサークルに誘った。

オスメニアサークルは大きな通りが交わる交差点だが、普通の交差点のような十字路になっているわけではなく、一周300mほどの円形の一方通行道路が、交差点の中心に存在している。各方面から交差点に入る車は、一旦円形の道路に入り、その円を回って走りながら、自分が行きたい方向の道路へと抜けていくような、変形交差点だった。
もし行くべき方角が定まらなければ、いつまでもそのサークルをぐるぐると走りまわることができるし、そのサークルを利用して、自分が来た道へ戻ることもできる。そしてそのサークル道路の中側が、ちょっとした公園のようになっていた。

周囲を車がたくさん走り、静かに話をする場所でもなかったが、しかしその内側の敷地の中を人がぶらぶらしていることは、あまりなかった。

二人はライトハウスから、オスメニアサークルへと移動した。サークルの内部に入るには、道路を渡らなければならない。彰祐はメリアンの手を取って、車の合間をぬいながらサークルの内側へ向かって走った。

「わたし、ずっとセブに住んでいるけど、ここに入るのは初めてなの」と、物珍しいという眼差しをサークルの内側に向けながらメリアンが言った。
「僕も初めてだよ。よく見てなかったけど、芝生があるんだね。人があまり入らないから、ごみもなくてここはきれいだ」
「そうね。まるで公園みたいね」
二人は道路を渡ったときに繋いだ手を離さず、そのまま芝生の方へ歩いていき腰を下ろした。

彰祐とメリアンは、サークルを走る車をうつろに見つめながら、そのシチュエーションに不思議な感覚を抱いていた。
車のエンジンやクラクションの音が響き渡っているが、二人だけが世間から隔離されたような錯覚を覚える、不思議な雰囲気だった。

「僕はあと3週間で、日本に帰らなければならない。だから今日は、まじめな話をしたくてここに来た」
「あなたが日本に帰ったらさみしいな。私もいつもそれ、考えてる。それを考えると、心が苦しくなる」

二人は視線をサークルの外に向けながら話していた。車の騒音が、逆に二人の心の静けさを作っているようで、それが会話の邪魔になることはなかった。

メリアンの言葉を聞き、彼女の手を握る彰祐の手に、自然と力が入った。
「僕も同じだ。君と離れることを考えると、胸が苦しいよ。メリアン、初めてデートした日のことを、覚えてる?」
「もちろん覚えているわよ」
「僕はあの日から、君のことを愛しているかもしれないと思うようになった。今ははっきりとわかる。僕は君を愛している」彰祐が視線をサークルの車からメリアンに移すと同時に、彼女も彰祐の方を向いた。彼女は表情を変えず、ポツリと言った。

「わたしも・・・。私もあなたを愛している。もうずっと前からよ」
二人は自然に引き合われるように顔を近づけ、初めてのキスを交わした。芝生に座った姿勢と繋いだ手はそのままだった。

3分なのか5分なのか、それとも10分なのかわからなかったが、彰祐には長いキスをしたように思われた。キスの後、彰祐はメリアンの肩を抱き寄せ、メリアンも彰祐の肩に顔を預けながら、しばらく二人は互いの心の内を話し合い、甘い時間に酔いしれていた。


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カテゴリー:アイリーン
エントリー:アイリーン21
2009年09月17日

アイリーン20

ビールを飲んで一息ついたら突然思い出した。メリアンが、何か困ったことがあったらここに電話をしてくれと、研修生に連絡先を渡してくれたそのメモが、ポケットに入っていたのだ。しかもご丁寧に、公衆電話から電話できるよう、そのメモでコイン数枚をくるんで渡してくれたのだった。
彰祐は、電話をかける必要があること、そして公衆電話の場所はどこかと、メモやジェスチャーを使い店の男性に尋ねた。そしたら今度は、店の電話を使えと彰祐をカウンターの奥へ案内してくれた。

その電話には、メリアン自身が出た。彰祐が出先で財布を失くしたことを告げ、今いる場所は店の男性に電話を代わってもらい説明してもらった。メリアンには自分が窮地に陥っていることは伝わったようで、また店の男性にも、メリアンから彰祐が財布を失くしたことが、明確に伝わったようだった。

彼女を待っている間、店の男性はテーブルを挟んで彰祐の向かいに座り、ずっと彰祐の話し相手をしてくれた。彰祐は慣れない英語で、自分が研修で日本から来た人間であること、フィリピンのビールがうまいこと、フィリピン人は優しいこと、バーベキューがうまいことなど、断片的ではあったがフィリピンの感想を男に伝えた。
男は終始笑みをたやさず、彰祐の話しに耳を傾けてくれたし、そして彼もまた、日本に対する質問や、セブの観光名所、ダウンタウンの見所などを教えてくれた。いつの間にか彰祐は、彼との会話を心から楽しんでいた。

メリアンがその店に来たのは、30分ほど経ってからだった。彰祐がビールをご馳走になった話をメリアンにすると、彼女は自分の財布からお金を出し、ビール代を払いながら彰祐が世話になったお礼を言った。その男性は店の主人だったそうだ。彰祐が財布を失くし困っていることは、すぐにわかったそうだ。それでも彰祐があまりにも汗だくになっているので、気の毒になってビールを勧めたらしい。
彰祐も丁寧にお礼を言い、メリアンと彰祐の二人は、その店を後にした。彰祐が店を出る時、その主人は彰祐に向かって親指を立てながら「グッドガールフレンド!」と言った。

道を歩きながら、彰祐はメリアンに謝った。
「せっかくの休みのところを、こんなことで迷惑をかけてごめん」
「だいじょうぶよ。どうせ家に居ても、何もすることがないの」
メリアンは、簡単な英語と日本語を上手に織り交ぜて彰祐と話していた。
彰祐たちがフィリピンへ到着してからの2週間、メリアンの日本語は目を見張るくらいに上達した。彼女は毎日会社を引けてから自宅で日本語のテキストを読み、翌日の昼休みには彰祐に、覚えたての言葉の使い方や発音などを確かめにきていた。その相手をしながら、彼女が日本語をマスターするスピードに、彰祐は内心舌を巻きながら、彼女が努力家であることを感じていた。

「あなたの財布は、きっとスリに取られたのよ」と、メリアンは歩きながら彰祐に言った。
「スリ?難しい言葉を知ってるね」
「そうじゃないかと思って、その言葉を家を出る前に調べてきたの」と、彼女は舌を出して肩をすくめた。
「ダウンタウンはスリが多いのよ。あなたはきっと、財布を後ろのポケットに入れていたんでしょ?それは危ないわよ。だからフィリピン人はそれしないの」
「それじゃパンツの中にしまっておけば良かった?」
「ハハハ、何いってるの!前のポケットに入れたらOKよ。それよりも、大切なものは入っていなかったの?カードやライセンスは?」
「大丈夫、それは別の財布に入れて、全部ホテルに置いてきたから。失くした財布には、必要なお金だけ入れて持ってきた」
「一人でここへ来たことは褒められないけど、そのことに関しては頭が良かったわね。今度出歩く時には、ちゃんと私を誘いなさい。食事をご馳走してくれたら、ガイド料は取らないから」メリアンは自然に彰祐の腕を掴みながら、体を半分彼の方へ向けてそう話した。まるで恋人同士が歩いているような雰囲気に、彰祐の胸は少し高鳴っていた。

「それほんと?だって休みの日につき合わせたら、悪いかなって思ってさ。それに日曜日はデートかもしれないって考えるでしょ」
「残念ながらデートをする相手はいないの。だから一人歩きはしないで下さい。あなたはフィリピンにきたら、子供のようなものなんだから。そのうちもっと危ない目に会うわよ」
「わかった。それじゃ、今日はまだ予定があるから、残りのスケジュールを付き合ってもらおうかな・・」
「フフフ、そのつもりで来たから大丈夫よ。ここまで来て、もう大丈夫だから帰れって言われたら、どうしようかと思ってた」メリアンは満面の笑みで本当に嬉しそうに答え、彰祐もその彼女の反応に胸がときめいた。思えば彰祐の彼女に対する恋愛感情は、それが始まりだったような気がしていた。

会社では普通に接していたのに、その日の彰祐は彼女の一挙手一投足を意識していた。もともと明るくて優しい子であったが、こうやってプライベートで会って恋人のような会話を交わしていると、彼女の良さの一つ一つが彰祐の心の中へ浸透していくようだった。
ダウンタウンの外れにあるセントニーニョ教会とその周辺を散歩した二人は、財布を取りに彰祐のホテルへ戻った後、夕食を一緒することにした。

彼女のリクエストは和食だった。和食は値段が高いので、普段は入ることができないそうだ。しかも行ったことのある人からは、とても美味しいという話を聞いていて、一度は行ってみたいというのがメリアンのリクエストの発端だった。彰祐は普段よく利用するレストランを、敢えて避けることにした。それは同僚と鉢合わせする可能性があるからで、彰祐は二人の食事を誰にも邪魔されたくないと思っていた。

食事はセブシティーの中心から少し離れた、日本人女性が女将をしているレストランを選んだ。メリアンにとって和食は、寿司、わさび、味噌汁、あげ出し豆腐、そば、煮物、天ぷらなど全て初めてのもので、箸の使い方から食べ方まで、一つ一つの料理で会話が盛り上がった。
常に笑みを絶やさないメリアンであったが、わさびを一口味見をした後には、顔をしかめ、目に涙を浮かべながら水をがぶ飲みしていた。それ以外は味噌汁や刺身も含め彼女には大好評で、噂通り和食は美味しいと感激しながら、彼女は見ていて気持ちの良いくらいよく食べた。よく食べて、よく話しをした2時間の食事は、あっという間の出来事だった。

彰祐は食事の最後に、メリアンにお礼を言った。
「今日はありがとう。本当に助かったよ。そしてその後のデートは、本当に楽しかった」
「わたしも楽しかったわ。素敵なデートだった。こんなデートは初めての体験よ」
彰祐はその言葉に気をよくし、またデートに誘っていいかと思い切って訊いてみた。

「ええ、もちろん。絶対に誘って。それとも今すぐ次のデートの約束する?」と、メリアンははしゃぐように答えてくれた。日本人だったら控えめに答えたりするものだが、彼女のあまりにもストレートな反応に、彰祐は逆に戸惑った。

その答えは、彰祐のことを異性として意識しながら話しているものなのか、それとも単なる友達のような感覚で話しているのが、彰祐はわからなくなってしまった。文化の違いがそこに出ているのかもしれず、彼女の反応をどう捉えていいのかわからなくなったのだ。そのように考えると、今日半日デートに付き合ってくれたことも、ついさっきまでは少しくらい脈があるかと思っていたが、それすらわからなくなった。

ともかく次の日曜の約束だけはして、彼女をタクシーで送り届けたが、メリアンと別れてからも彰祐はそのことが気になっていた。それを考えているうちに、彰祐はいつの間にか、彼女のことを好きになっているかもしれないと思い始めた。そしてそんなことを考え始めたとたんに、彰祐の中でメリアンを想う気持ちが加速度的に膨らんでいった。


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カテゴリー:アイリーン
エントリー:アイリーン20
2009年09月16日

アイリーン19

「もう少し早く君のことが分かっていれば良かったのだけれど・・」
「いいの、私嬉しい。ここでは誰も頼れず一人だと思っていたから」アイリーンは涙声で続けた。

「私ね、家族に自分がシンガポールにいることを伝えたかったの。でもどうしてもできなかった。私、自分の携帯も取り上げられたから、みんなの電話番号もわからなくて・・。そんな時にミスター喜多川が私を探し出してくれた。それで少しは救われた気持ちになっていたの。少なくとも私がシンガポールで生きていることは、リンさんや私の家族に伝わるから」
「そう、色々な人が君のことを気にかけて、それで僕に話しが伝わった。君は決して一人ではないよ」
「そうね。ほんとうにそうね。私、みんなに感謝しなくちゃ」頬を伝っている涙を手の甲で拭いながらも、アイリーンの涙は止まらなかった。それは、まるで感情を失ってしまったような、昨日までの彼女とは別人のようだった。それを見た彰祐も、アイリーンがどれほど辛い思いをしていたのかを実感し、目頭が熱くなっていた。

アイリーンは涙でくしゃくしゃになった顔をあげて、彰祐に尋ねた。
「なぜ昨日、そのことを言ってくれなかったの?」
「君を不用意に混乱させたくなかったからだ。それに僕は、ただ単にミスター喜多川の知り合いということではなくて、その前に一人の人間として、君との間に信頼関係を築きたかった」それは彰祐の本心だった。本当は人としてというより、親子の絆を築きたかったのかもしれなかった。

「それはよくわかるわ。だって私は、あなたがミスター喜多川の知り合いではなくても、ちゃんとあなたのことを信用していたもの。だから今、全ての事情が分かって心から安心できる」
「そうか、そんなふうに言ってくれてありがとう。僕も嬉しいよ」

話が一段落したところで、アイリーンの携帯が鳴った。売春宿のヤンからのコールだった。アイリーンが電話に出て、ヤンと話した。

「ええ、ごめんなさい。まだ食事をしているの・・・。あと1時間お願い・・・。だって彼はあなたに200SDを渡しているでしょ。問題ないはずよ・・・。大丈夫、今お店の近くにいるから・・・わかった」

アイリーンが電話を切ってすぐに、彰祐が心配そうに訊いた。
「もう時間なのかい?」
「まだ大丈夫よ。ボスはいつも4時頃店にやってくるの。だからそれまでは大丈夫。あと1・2時間くらいは平気よ」
「それは良かった。それじゃもう少し話ができるね」
「ええ。良かったらあなたの昔の恋人の話を聞かせてくれる?」

アイリーンの唐突なお願いに彰祐は戸惑った。しかしいずれは彼女に、全ての事実を打ち明ける時がくる。その時に自分とメリアンの話を彼女に聞かせておくことは、後々それが彼女にとって重要な意味を持つことに違いなかった。
彰祐はアイリーンに、昔を懐かしむように二人の話を聞かせた。


そう・・・彰祐の昔の恋人、そしてアイリーンの本当の母親メリアンとの出会いは、当時彰祐が入社したマルビシ電機の協力会社、ハタ電機のフィリピン工場であるところから、彰祐は話し始めた。

研修が始まってから、約2週間が経過した頃だった。
彰祐は初めてフィリピンを見たときに受けた衝撃の正体を、もっと良く知りたいと思っていた。その衝撃とは、空港から街に移動する際に見た、おもちゃ箱をひっくり返したような賑わいと、そこから発せられていた、雑草のような力強さを感じさせる、人間の生きる活力のようなものだった。
貧困に満ち溢れていると思っていたフィリピンの人々の目が、誰一人死んでいないことに驚いたのだ。

フィリピンの生活にも慣れた彰祐は、休日の昼過ぎに一人でセブのダウンタウンに出かけた。ダウンタウンは一人で行ってはいけないと言われていたエリアだったが、彰祐は行くなと言われると、ますます行きたくなった。

ダウンタウンまではタクシーを使い、難なくたどり着くことができた。タクシーの運転手にどこで下ろすおろすかと聞かれた彰祐は、ダウンタウンの真ん中で下ろしてくれと答え、タクシーはガイサノモールの前に停車した。そこはダウンタウンでは一番人が込み合う場所である。

道端では多くの露天商が、カッティングフルーツや雑誌、タバコ、ピーナツ、たまご、小物などを売っている。露天商といっても、ダンボール箱の上にベニヤ板をのせて、その上に各自の商品を並べている粗末なものだ。
売り手は老人から子供まで様々だった。歩道は露天商が店を出しているために、もともと狭い道がより狭くなっていて、所々は大人一人分しか有効幅がない。
その歩道に沿って、普通の店も軒を連ねている。食堂や時計、シューズ、ジュエリーなど、なんでも揃っている。
時計屋ではSEIKOがずらりと並んでいたが、どう考えても価格が安すぎた。おそらく偽者なのだろうが、彰祐はそれを手にとってまじまじと見ても、どこが偽者なのかわからなかった。
食堂のような所は、どこも人でいっぱいだった。幅が3mたらずで、奥に細長い作りになっている。
どの店もそうだったが、入り口に壁やドアはなく、食堂もプラスティック製の白い椅子とテーブルが奥に向かって並んでいるのが歩道から丸見えとなっている。
食堂の中で食事をしている人の前には、一品料理が皿の上に雑に盛り付けられたものが見えた。料理といってもそれは、如何にも安そうな見栄えの悪いものだったが、それでもみんながそれを食べている。

道の所々には、汚水が溜まっていて異臭を放っている。歩道は全体的に傾いているところもあれば、窪みがあったりもする。その窪みにどこからともなくちょろちょろと流れる汚水が溜まっているのだ。

ガイサノモールに入ると、それこそ身動きできないようなほどの人がいた。まるで日本での初売りセールか何かのイベント会場のようだった。
一通り店内を巡り、再び外に出て周囲の建物を良く見ると、多くの建物の灰色の外壁にはいくつものひびが走っていて、何もかもが古ぼけていた。が、どこもかしこも活気があり、彰祐は圧倒されるばかりであった。

あちこちをうろつき回り汗だくになった彰祐は、ドリンク&ライトミールと手書きで書かれた紙が貼り付けてある古ぼけた店に入り、のどの渇きを癒そうと思った。
一番奥のカウンターでビールを注文し、いざお金を払おうとしたその瞬間だった。彰祐は後ろポケットに入れてあった財布がなくなっていることに気付いた。店員は既にビールのボトルの栓を開け、薄汚れたグラスと一緒にそれらを彰祐の前に差し出していた。

「ソーリー、ノーマネー イッツアクシデント アイ ロスト ウォレット」
片言の英語しか話せない彰祐の体には、どっと汗が噴出していた。
財布を失くしたことと、お金が無いのにビールを頼んでしまったことで、頭の中がパニック状態になっていた。

しかし彰祐の英語は、どうやら通じたようだった。彼がお金を持っていないことを理解した若い女性店員は、栓を空けたビールを持ったまま奥へと引っ込んだ。そしてすぐに、40前後の男性がそのビールとグラスを持ち、彰祐の前に現れた。
浅黒い肌を持つ痩せ型の長身の男性だった。彼は彰祐を、テーブルに座るように手招きし、彼の前にそのビールを置いた。
彰祐は手を自分の前で左右に振りながら、「ノーノー、ミー、ノーマネー」と言ったが、その男は笑みを浮かべながら、「イッツオーケー、プリーズ」といい、両手を彰祐の方に差し出しながら、ビールを飲めと言っている。どうもご馳走してくれるようであった。
それを理解した彰祐は、まだ一抹の不安を抱えながらも乾ききったのどに我慢できなくなり、すすめられたビールに口をつけた。
それはフィリピンでは珍しくよく冷えたビールで、五臓六腑に染み渡るようで格別に美味しかった。大げさながらも彰祐は、その味を生涯忘れないだろうと思ったほどだった。

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