フィリピーナと共に
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2011年12月15日

405.マニラの不思議な光景

マニラ・マビニストリートのコーヒーショップで、ある欧米系の男性がコーヒーを飲んでいた。
たばこを吸うその紳士は、店の前に設置された屋外テーブルの椅子に背筋を伸ばして座り、道路を行き交う車の流れや歩道の往来をぼんやりと眺めていた。
鼻の下に金色の髭を蓄え、少し恰幅が良く、メガネをかけて、まるでケンタッキーの叔父さんのような初老の人だった。

時折ストリートチュルドレンがやってきては、お金を持っていそうなその紳士に手を伸ばして物乞いをする。
紳士はその子供たちに渡す5ペソコインを、あらかじめテーブルの上に綺麗に縦横数列に並べ、子供から催促されたらそれを上から順番にとって一枚ずつあげていた。
傍で見ていた僕は気付いたが、一度コインを手にした子供が、少しだけ間をあけてまたやってくる。
紳士も、一度コインをあげた相手だということに気付いたと思うのだが、子供が何人・何度来ようとも、頂戴の仕草に対してまるで契約が存在しているかのように、ゆっくりとした動きでコインを上から取っては目の前の子供にあげた。

そんな調子だから、テーブルの上に並んだコインはものの10分で無くなった。
コインが無くなってからやってきた子供には、両手を広げて首をすくめながら「もうコインは無いよ」と、それまた仕草だけで伝えていた。
子供と紳士の間には、まったく会話がなかった。全てはジェスチャーだけの世界だった。

この紳士は、口がきけないのだろうかと、僕は疑い始めた。
優しい目つきと終始無言の仕草が対照的で、妙に気になる人だと思いながら、僕はその紳士の素性をあれこれ想像した。
おそらくどこかの大会社の偉い人だとか、利息という無就労収入で優雅に暮らしている人などと、基本的にはどこかのお金持ちだと決めつけて想像した。
とにかく本物の品を身につけた仕草や風貌は、どこからどう見ても上流社会の人に見えてしまうが、ヨーロッパ辺りからの旅行者にも思えた。

行けばコインをくれる危篤な紳士の噂はまたたく間にその界隈に広まったようで、今度は子供ではなく、細身で身なりが派手な若い女性がやってきた。
女性は紳士のテーブルの前に行き、テーブルに一緒に座っても良いかと尋ねると、やはり紳士は無言で軽く頷き、それを了承した。

その女性の目的は僕にはすぐに分かった。その若い女性は、日本人であれアメリカ人であれ、その姿を一目みただけで誰でもすぐに察しがつくような職業上のにおいを、衣服や髪の色や化粧などで全身から発散させていた。
店の中から店員がやってきて女性にオーダーを確認すると、女性は躊躇なくコーヒーを注文した。それに対して紳士は、まるでお構いなしにやはり道路の方をじっと眺めているだけだった。
女性の注文したコーヒーは、紳士が何も言わずに払うのだろうかと興味が湧いたが、今湧いたばかりの興味を打ち消すように、女性がいきなり切り出した。

「私は今、お金が必要なの」

女性はいつの間にか吸い出したタバコの煙をスーっと吐き出しながら、ニコリともせずにそう言った。普通はへつらってご機嫌を取りながら交渉するものだろうと思う僕は、その女性の態度にも驚かされた。
紳士は道路側を向いていた頭をゆっくりと無言で女性の方に向けて、女性の心のうちを見透かすように、じっとその顔を見つめ出した。
これでも男は沈黙を守り通すのかと思った瞬間、低音で太く抑揚のない声で、

「いくら必要か?」

と短く女性に尋ねた。紳士は話しができるのかと僕はハッとした。

女性は

「イッツアップトゥーユー(あなた次第)」

と答えた。途端に紳士は、一度女性に向けた顔を道路側に戻し、再び会話を遮断するように無言で車や人を眺め出した。
女性がタバコを灰皿でもみ消して席を立とうとしたその時に、紳士は顔を道路に向けたままの姿勢で、また話しだした。

「お金が必要だったら、必要な金額をはっきり言いなさい」

女性は一度浮かせかけた腰を再び椅子に降ろし、テーブルの上で両手を自分の顔の前で会わせながら、紳士に聞こえるようなわざとらしい溜息をついた。そしてしばし無言のあとに

「5000ペソ」

とだけぶっきらぼうに言った。
紳士はやはり無言のまま、ハンドバッグから取り出した財布から、1000ペソ札を5枚抜き取り、テーブルの上にそっと添えるように置いた。
不思議な展開だった。交渉成立に見えた2人の間には、交渉という言葉があまりに不釣り合いな雰囲気が漂い、その中で金額が決まりお金がテーブルの上に出現したのだった。
女性はその5000ペソをさっと取り、鞄にしまい込んで礼も挨拶も無しに、さっさと席を立ってコーヒーショップから出ていってしまった。
紳士も何事も無かったように、相変わらず道路をぼんやりと眺めているだけだった。

不思議な光景は、翌日にも続いた。
同じような時間帯に同じコーヒーショップへ行くと、同じ席に前日の紳士が座っていた。
テーブルの上には5ペソコインが既に並べられていた。何個か配り終えた後なのか、その数は昨日よりも少ないような気がした。
僕も昨日と同様、その隣のテーブルに席を取り、昨日と同じように紳士を観察した。

その紳士は不思議な人だった。なぜ子供たちにコインを配るのか、なぜ昨日は5000ペソを女性にあげたのか、僕には理解できないことだらけだった。
紳士がテーブルの上に並んだコインをあらかた配り終えた頃、更に不思議なことに、昨日と同じ女性がやってきて、同じような短い会話を交わしたあとに紳士のテーブルに座った。
そして、昨日と全く同じやり取りがあり、その日若い女性は4000ペソを手にしてコーヒーショップを後にした。
全く同じ会話を交わすことで、女性の態度が随分挑戦的であることが分かってきたが、紳士は昨日と寸分たがわず穏やかであり冷ややかでもある態度を貫いていた。

更に翌日、今度は意識的に同じ時間にそのコーヒーショップを訪ねてみると、期待通りに例の紳士がテーブルに座っていた。
そして、再びデジャブーを見ているような同じ光景と会話が繰り返され、若い女性は6000ペソを手にして帰って行った。
若い女性がイッツアップトゥーユー(あなた次第)と言い、それを紳士がたしなめるように金額を言いなさいというところまで同じように繰り返されると、今度はドラマの撮影リハーサルを見学しているかのような気がしてきた。

若い女性が立ち去った後、僕が不思議そうに紳士をみていると、道路側の往来を見ていた紳士の顔が突然こちらを向き、不意に目が合ってしまった。
紳士はかすかに顔に笑みを浮かべ

「不思議か?」

と僕に訊いてきた。紳士はどうやら、毎日傍らで一部始終を目撃している僕を、しっかりと認識していたようだった。
思わず僕は正直に

「不思議です」

と答えていた。
すると紳士は体をこちらへ向き直し、語り始めた。

「彼女は私の娘だ。この辺をうろついて体を売る仕事をしていたようだが、今はきっとやっていないだろう。私から毎日お小遣いを持っていくのだから、生活には困らないはずだ。彼女も私が父親だということは知っているが、彼女は決してそれを認めようとしない。いつも私に対して客と同等の扱いをし、金額をあなた次第と言って私を困らせようとする。あれは親らしいことをしてこなかった私への、あてつけの言葉だ」

紳士はそう言ったきり、コーヒーを飲みタバコを吸いだし、また無言で道路を眺め出した。
これで終わりかと思ったその時、胸のつかえを吐きだすように紳士が再び語り始めた。

「こんなやり取りがもう2か月も続いている。金額はいつも適当だ。言われた通りに与えている。私はアメリカで自分の会社を売り払い、お金には不自由していない。これまで娘を捨てたと同然の仕打ちをして働いて手にした金だから、娘にそれを与えることは問題ない。あれは元々、娘に全てくれてやるべきお金だ」

そこまで言って紳士は席を立った。
振り向きざまに
「子供はいるか?」
と訊かれたので
「可愛い娘が2人います」
と答えると、紳士はニコリと笑って

「大切に育てなさい」

と言い残して、その場を静かに立ち去った。

いつまであのやり取りが続いたのか、僕の観察はそこで終わったので分からない。
親子の関係修復はできたのだろうか。
何か事情があるのだろうが、紳士は絶えず寂しそうだった。
胸に強く残る、忘れられないマニラな体験だった。
我が家で子供を見ている時に、「大切に育てなさい」という穏やかに発せられたその言葉は、未だに僕の胸の中に響いている。


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エントリー:405.マニラの不思議な光景
2011年12月14日

404.マレーシアの住居周辺

あらためて今マレーシアで住んでいる界隈の写真を撮ってみた。
これが現在住んでいるマンションの、外観となる。

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その近くには、小さなレストランがいくつか並んでいる。中華系とインド系のようだ。
インド系のこのようなレストランは、並んでいる料理から自分の好きな物を皿に取り分け、何種類の料理を取ったかで値段が決まる。ご飯とカレー1種類だけなら、いくら山盛りに取ろうが6〜7リンギット(150円〜175円)ほどで収まる。お腹に苦しく財布に優しいレストランだ。

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店の外にもテーブル席が多数あり、夜は多くのマレーシア人で賑わっている。この手のレストランは、朝方までやっているところが多い。

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これはマンションと道路を挟んで向かい側にある大きなモール。道路の下に通っているトンネルを歩いて5分とかからない。

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モールの中には、人口の川がある。ここにボート乗り場があり、近くの湖へ遊覧に出かけられる。マンションの中にもそれと繋がる川が引き込まれており、このモールとマンションは、ボートに乗って行き来もできる。

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川の両側にレストランが並び、室内ながら屋外気分で食事ができるテーブルも設置されている。

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モールの中は、作りもテナント店も、マニラのそれと同じような雰囲気となっている。とても綺麗な作りだ。

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少しピンボケ気味だが、モールの中にある時計屋さんのアップの写真だ。

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これは日曜日に夕食で利用した回転ずしや。まじめに体からカレー臭が漂いそうなので夕食は和食にした。システムは日本と変わらないが、メニューはすしに限らず、和食全般(牛丼、てんぷら、そば、うどん、刺身定食、揚げだし豆腐、焼き魚定食 etc.)となっている。
僕はその日、すしを4皿、コロッケ、肉うどんを注文した。それで料金は35リンギット(875円)。
地元のレストランよりも高めである。

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食後にいつも寄る、モールの中のスターバックス。無料のインターネットがまあまあ早く、iPhoneを使ってコメントの返事をここで随分書いた。

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マンションに戻り、部屋のある階のエレベータホールから見た湖とは反対側の夜景。KL(クアラルンプール)の中心街と比較すると、それほど煌びやかではないが、それなりに綺麗だ。

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マレーシアの僕が暮らしている場所とは、およそこのようなところで、便利で安全で綺麗なところだ。
それでもフィリピンの自宅に、できるだけ早く帰りたいという気持ちが強い。
美味しい和食レストランが無くて、汚くて、物貰いがたくさんいて、モールとは名ばかりの陳腐なスーパーしかない町でも、やっぱり帰りたいと強く願っているのは、どんなところでも家族と一緒に勝るものがないと思っていることに他ならないのだろう。
仕事中心の生活を長年続け、仕事が全てに優先されたかつての自分から、随分変わったものだと驚いている。


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エントリー:404.マレーシアの住居周辺
2011年12月13日

403.良き友人

マレーシアに来る少し前から、僕は将棋にハマっていた。将棋は昔よくやったが、社会に出てからずっと御無沙汰しており、少し緩んできた頭のネジを締め直す意味で、将棋ゲームをiPhoneに入れてやり始めてみた。

コンピュータを相手に対戦するが、コンピュータの強さのレベルを初級・中級・上級と選択できる。
最初は初級相手に苦戦したが、やり続けるうちに昔の勘も戻ってきて、常勝傾向になってきた。
そこでコンピュータのレベルを中級にあげてみたら、途端に勝てなくなった。
とにかくいやらしい手が多く、「あっ」と思った時に一度くらい「待った」のボタンを押して手を戻しみても、さっぱり事態は改善されない。随分前のところから手の込んだ罠が仕掛けられていて、いつも「気付いた時には既に遅し」という状態である。
コンピュータは先読みが得意だから、こちらも、コンピュータが究極の選択をする状況に追い込まなければ、どうにも勝てないようだ。
コンピュータのくせに生意気なやつだと、いつもムカついてやっている。

ある晩その将棋と本気で格闘中に、モナが夕食だと言ってきた。こちらは長考の真最中で、少し目がつり上がっていた。「ちょっと待って」と言ったが、ご飯だとしつこく言うので、「それじゃいらない」と言った。
これが日本語の良く通じる相手なら、「取り込み中だからあと少しだけ」などともう少し補足するのだろうが、このようなちょっとした時に「取り込み中」などという言葉を説明するのが面倒になり、会話を省略してしまうことがある。(これが問題なのだが・・)

こちらの言い方は少し悪かったが、全くお腹が空いていないことも伝えた。
その日の5時頃、モナが外出中に、ママがスナックだと言ってパン3個と、大皿に、それを見た瞬間まじめに驚いたほど山盛りになったビーフンを部屋に運んできてくれた。せっかく運んでくれたので、僕はそれを全部1人で平らげたから、モナが家に帰ってきた時には、「食べるのが大変だった、おそらく夕食はもう食べられない」ということを、既に普通の会話でも伝えていたことであった。

翌朝、僕は早起きをして、やはり将棋ゲームと格闘していた。そして同じように、なぜいつも劣勢になるのかとイライラしていた。
そこへ前夜と同じように、モナが朝ごはんだと言ってきた。「ちょっと待って」と言ったが、やはり前夜と同じようにモナがしつこく朝ごはんだと言ってくるので、これまた前夜と同じように、「それじゃいらない」と僕は言った。ついでに、僕はもともと朝ごはんはいらない人だから、本当は毎日朝食抜きでも問題ないとも言った。
これは本当の話で、実は僕は朝食が苦手である。小学生のころから、朝食を食べるとお腹の具合が悪くなるので、それからずっと朝食は食べずに何十年も生きてきた。
しかしフィリピンに住むようになってから、家族に合わせて、がんばって朝食を取るようにしていたのである。
その時モナは、ちょっと怒ったような顔をしたが、とりわけ僕に文句を言う訳でもなく引き下がった。しかしその態度から、おそらくムッとしているなとは思っていた。

その日の昼少し前の時間だったと記憶している。僕の携帯が鳴り、携帯画面はSさんからの着信を告げていた。
電話を取ると、どうしているかなと思って電話をしたようなことを言われた。
こちらも仕事の合間の気分転換になるので、喜んで世間話などをしていた。
するとSさんが、その日の用件についてさりげなく導入話を始めた。

外出先のSさんの奥さんから何度もしつこくSさんに電話やメッセージが入り、「妻からそちらの様子を確認してくれと言われましてねぇ」というものだった。
しかも「なぜ電話をしたか、その理由が分からないように話してくれなんて言われまして、そんな難しい注文は無理だよ、俺は電話をするのは嫌だと言ったんですけれど、うちの奥さんがあまりにしつこいもので・・」などと、何の言い訳か分からない言い訳に聞こえるセリフを並べ始めた。

そしてSさんはいよいよ核心に触れた。
「昨夜の晩も今朝も、ごはんを食べていないようだけれど、大丈夫なんですか」
それですぐにピンときたのだが、「随分と僕の生活にお詳しいですねぇ」と笑って答えると、実はということでSさんが教えてくれた。

モナが、夕食も朝食も続けて食事をとらない僕に対する不満を、Sさんの奥さんに携帯テキストで発散させて、女性2人はその話しで盛り上がっていたようなのだ。
おそらくSさんの奥さんもそれは良くないと、この件では100%モナに加勢してくれたのだろう。
モナのメッセージには、「食事を共にできない人とは一緒に暮らせない」といった少々過激な内容も含まれていたようで、SさんとSさんの奥さんは、実際にはその時まるで平和そうに過ごしていた僕とモナの間に、乱闘寸前の大戦争が勃発していることも想定していたようだ。
Sさんにしてみれば、犬も食わない夫婦喧嘩に他人が口を挟むのはどうかという気持ちがあったのだろう。ぎこちない話し方に、それがありありと出ていた。

Sさんは、僕から直接言われた内容ならいざ知らず、「モナ>>Sさんの奥さん>>Sさん」のルートで入った情報で電話なんかできないと断ったらしいのだが、結局押し切られてコールしたという経緯まで、十分すぎるほど丁寧に説明してくれた。
僕は終始、Sさんの奥さんの強引な依頼ぶりを想像しながら、ゲラゲラ笑ってその話しを聞いていた。

モナは、食事をとらない件で、僕に直接文句を言ってこなかった。普通に会話もしていたし、そのことをモナがそれほど怒っていたなど、Sさんからその話しを聞くまで全く知らなかった。
「あ〜、やっぱりモナちゃんは、不満を表に出したりぶつけたりしないで、内に貯めこんじゃうんですねぇ、よく見かける激情タイプのフィリピーナとは、やっぱり違うんだ」
とSさんに言われ、おそらくそうだろうと僕も思ったが、それ以上に、うっ憤を晴らしてくれた相手(Sさんの奥さん)がいたことで、気が済んだのかもしれない。

Sさんは、話しが変にこじれることを恐れながら、かなり気を使って話してくれていたが、
僕はその心配とは裏腹に、モナにそのような不満や怒りを吐き出すことができる相手ができたことを、本心から良かったと思いながらSさんの話しを聞いていた。
本来そのような事は、モナは僕に直接言えば良いのだが、それができないなら、それを聞いてくれる第3者がいることは僕とモナにとって大変有り難いことである。以前のように何かを貯め込んで、心の病気になってしまうようでは困ってしまう。
しかも、もし直接言われたら本当に喧嘩になったかもしれないが、こうして遠回りで自分に届くと不思議に笑い飛ばすことができて、冷静に考えることもできる。

モナにしてみれば、Sさんの奥さんは心強い味方であり、いざとなれば僕との間に発生した問題についてSさん御夫婦に介入してもらえることもあり得ると思っているわけだから、随分と心にゆとりができたのではないか。
はけ口にされる方は迷惑で、Sさん御夫婦には大変申し訳ないのだが、実際にモナはSさんの奥さんに自分の不満について同意してもらい、そして盛り上がり、かなり気が晴れたのだろう。それゆえに、僕と自然に普通の会話ができていた。

Sさんの奥さんは、モナが夫婦間の問題を他人に告げ口した事に対して僕が怒ることを避けるために、Sさんに、モナからそのようなメッセージが入っていることを内緒にしながら僕の様子を確認してくれと念を押してお願いしたようだ。
そのような日本人的な気遣いを添えながら心配してくれることは大変ありがたいことだと、僕は心底思うのである。(肝心の日本人は、全て正直にばらしてくれたが・・笑)

当然僕は、Sさんから電話があったことについて、モナに怒ったりはしなかった。
実際に怒りの感情は微塵も湧いてこなかったし、仮に怒ったとしても、それをモナにぶつけたら、せっかくできたモナの逃げ道をふさいでしまうことになる。
モナに笑いながら「レポートしたんだって?」と言ってみたところ、「そうよ、食事は家族とのコミュニケーションの場なんだから、一緒することが大切でしょう!」という言葉が返ってきた。

なるほどその通りだ。確かに僕が悪かった。
「食事は空腹を満たすだけのものではなく、大切なコミュニケーションの場でもある」
極めて文化的かつ優雅な発想であり、考え方だ。
このような書き方には少々皮肉っぽい響きがあるが、これは皮肉ではない。
この言葉から、僕はフィリピンをなめていたようだとつくづく感じた。
普段の食事など、空腹を解消できたらそれでいいじゃないかというところがあったのである。
日本ではどうだったか。
「食事の時は何があっても家族全員が顔を揃えなければならない」などということは、一昔か二昔前の中流か上流家庭の話しだったような気がする。
こうして考えてみれば、日本人の失くした大切な習慣や心が、フィリピンには根強く残っていることを久しぶりに実感するのだが、何よりも嬉しく感じたのは、モナがそのようなことを話せるくらい、Sさんの奥さんとのコミュニケーションを親密なものに築き上げていたことだった。

これからは、お腹が痛くなろうが、下痢ピーになろうが、気持ち悪かろうが、差し迫った用事が無ければ食事は一緒しなければならないと、あくまでも前向きな気分で、僕はそう思ってそう言った。

他人を介在して夫婦の会話をしたり問題を解決するなど、なんて幼稚な夫婦だとお叱りを受けるかもしれないが、その方が良いケースもあることは認めなければならない。
僕は最近、知り合いの夫婦のやり取りを見て、それを強く感じていたところでもあった。
ただし、介在してもらうのは誰でも良いわけではない。
良くない人に入り込まれたら、返ってこじれることもある。特に介入者が激情型で野次馬根性丸出しのおっせっかいフィリピーナであれば、ますます大変なことになってしまう可能性が大きい。
夫婦共に十分それらをわきまえた大人で、かつ親身に話を聞いてくれる人など、日本でも簡単には見つからない。だから尚更嬉しいと感じるのである。

もしSさんの奥さんが、モナの告げ口により我が家に怒鳴り込んできたら、きっと僕は子供のように小さくなって、「ごめんなさい」と素直に謝ってしまいそうだ。
それは、僕がSさんの奥さんを、本当に尊敬しているからである。
これまでの会話で、僕はSさんの奥さんに感心ばかりしている。他人の意見に自分の考えがぶれることなく、常に物事の本質を捉えてさりげなくそれを発言するところは、実にたいしたものだといつも思っている。
モナもそのような所があるから、本来僕は、モナをも尊敬しているのである。
しかし旦那ともなれば妙に肩肘を張ってしまい、その尊敬の気持ちを素直に表現できない。

この際だから正直にここで懺悔の心境で告白すると、喧嘩になる時の90%から95%は僕が悪い。
モナが言うことは、いつも胸に突き刺さって痛いほど正しい。
しかし僕は、モナの意見が痛ければ痛いほど認めたくない天の邪鬼だから困ってしまうのだが、その一方でそれではいけないといつも思っている。
とりあえず僕の人間性が成熟するまで、SさんとSさんの奥さんには、そのような煩わしくて幼稚なことでもお付き合いを宜しくお願いしなければならないと恥ずかしながらも思っている。
良き友人の大切さを、まさかのフィリピンでこれほど実感するとは、夢にも思わなかったことである。


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カテゴリー:フィリピン生活
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